家に帰ると、見覚えのない絵日記帳が机の上に置かれていた。僕のものではない。一人暮らしの部屋に、誰かが勝手に入った形跡もない。
表紙は少し黄ばんでいて、子どもが使うような安い紙の匂いがした。ためらいながら開くと、最初のページに妙な文章があった。
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〇月×日
よるの道路わきをあるいた。
みちばたの花がわらってる。
木々がわらってる。
灯りがわらってる。
道路びゅーびゅー。
わたしもわらってる。
わたしも走る。
びゅーびゅー。
びゅーびゅー。
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子どもの絵日記にしては、どこか温度がない。文章の端々に、誰かの息遣いのようなものが混ざっている気がした。
他のページは、テレビのこと、買ってもらった文房具のこと。塾の帰りが遅くなったこととかもあった。
どれも淡々としていたが、物静かな小学生ならこんなものかもしれない。
だが、誰かと遊んだ記録は一度もない。
描かれたイラストから、作者が女の子だということだけはわかった。
ただ、夜の道路のページだけ、筆跡が明らかに違っていた。子どもの丸い字ではなく、大人のように整った文字だった。
その違和感が、胸の奥にひっかかった。
***
夜、なんとなく散歩に出た。
外に出た瞬間、空気がいつもと違うことに気づいた。
道端のコスモスが、街路樹に絡みつくように伸びている。街灯はオレンジ、青、赤、緑と、ゆっくり色を変え続けていた。まるで呼吸しているみたいに。
交通量が妙に多い。
片田舎の道路なのに、どの車も異様にスピードを出している。80キロは出ているだろうか。
昔、母親に「この道は事故が多いから気をつけて」と言われた記憶がよみがえった。
そのとき、視界の端から車が飛び込んできた。
反射的に仰け反り、尻もちをつく。
車は急停止し、古いクラウンが目の前に止まった。
ドアが開く。怒鳴られると思って身構えた。


























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