「こっち」
と背後から声がした。
この部屋には俺以外誰もいないはず。
ゆっくりと振り向く途中で、カーテンの隙間から口の裂けた女の顔が覗いていた。
違う、これは俺の呪いだ。こいつは声なんか出さない。裂けた女は顔を俺に向けている。だが、目が俺を見ていない。視線はさっき声が聞こえたところを向いていた。
緊張しながら、その視線の先を見る。
何もいない。
ふと、窓に目をやると女の顔も消えていた。
ばくばくと心臓がなる。
山岸さんの計画は、心のどこかで擬似的なものだと信じていた。本物ではないと。
しかし今、俺が認知できる幽霊が何かを見ていた。
……本当なのか?
自分で思っていて、それが何を疑っての言葉なのかはわからない。
とにかく、怖い、と思った。
自分がはっきりと確認できないものには、対処のしようがない。
俺は考えることをやめ、ノートを机に仕舞い込み、とりあえず寝ることにした。
それからと言うもの、何かがいる気配を常に感じていた。
視線、と言うものが肌で感じられるようになった。
はっきりと目で捉えたことはない。
しかし暗がりの中や自分の背後にその存在を感じる。
そしてそのことを思い返す時、あのノートや電柱女が俺の頭の中で一つの像を結ぶ。
暗がりの奥に、女の目が浮かんでいた?
窓の外にへばりついた顔があった?
帰り道、ぴったりと俺の後ろにくっついていた?
いつも俺を殺そうとしていた?
俺は、赤い女を「見ていた」のか?
誰かもわからない。
何をするのか、何が起こるのか。
しかし、知ってしまった、感じてしまったことがあの女を喚起させる。


























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