日々、何かに侵食されていっている。
街で聞く怪談話も様子が変わってきていた。もはや面白がっていない。「昨日、風呂場で女を見た」「親父の棺桶を見て女が笑っていた」「耳元で誰かの声を聞いた」
皆、相談として話している。
数週間後、Bづてに「山岸さんがまた会いたいと言っている」旨の連絡が来た。
前と同じ喫茶店。遅れてきた山岸さんはげっそりとした俺の顔を見てニヤニヤしながら「楽しんでるねー!」と言って席についた。
「いやーありがとね。助かりました」
そう言って店員にアイスコーヒーを注文する。
「ああ、赤い女は大丈夫だよ。もう歩き出してる」
全てわかってる、という顔だ。
「結局俺の周りで起こったことって、全部山岸さんが仕組んでたんですか?」
俺の疑問に、山岸さんはニヤニヤするだけだ。
「あ、そういえばあれ、持ってきてくれた?」
Bから伝えられていた通りに、持ってきたあのノートを渡す。
「それも、ニセモノなんですよね?」
そこで、ふと山岸さんの顔から笑みが消える。
「いや、これは自殺した姪の。」
でも、と付け加える。
「中身は嘘、妄想。」
遠い目をしながら話を続ける。
「きっともうすぐホラーブームが来るよ。ただ、すぐ終わる。客はより本物を、本当の体験を求めるはずなんだよ」
「その時、この土壌が役に立つ。今はただの街の怪談だけど、もう歩き出したから」
「不幸になる人がいるかもとかって考えないんですか?」
俺の言葉にニヤリと笑って山岸さんが続ける。
「みんな現実から目を背けたいんだよ。だから不幸になっても非現実に飛び込もうとする。そこから、ドラマも、愛も、金も発生する」
山岸さんは鞄から封筒を取り出して机に置く。前よりも分厚い。
「ま、今回は本当に助かったよ。大成功!また次も協力してもらう時が来るかも」
そういって、電話番号が書かれた名刺を俺に渡してきた。
俺が受け取ったのを確認すると、ちょうどアイスコーヒーが届けられたのと同時に席を立つ。




























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