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妖怪・風習・伝奇

焦慮バッタさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

大きなカタツムリ
長編 2026/07/02 18:31 378view

そうこうしている間に、ひろみちゃんとの最後の3週間の日々はあっという間に過ぎ去って、学校全体での「移ろいの式」に先立つクラス内でのお別れ会がやってきた。
ひろみちゃんは泣いていた。
担任の桃野先生も泣いていた。
ひろみちゃんと仲が良かった女の子たちも泣いていた。
その姿を見て、ぼくの目頭も熱くなった。

「カタツムリになっても元気でね」
「ひろみちゃんのこと、これからも、大人になっても、絶対に忘れないからね。」

クラスのみんなが、一人ずつ順番にお別れの言葉をかける。
ぼくの番が回ってくる。
「2年生のとき、ひろみちゃんと一緒に体育係ができて、すごく楽しかった。
カタツムリになっても、ひろみちゃんが忘れてしまっても、ぼくは絶対に覚えてるからね」

あらかじめ何と言うか考えていたのに、いざ話すと思いのほかたどたどしくなってしまった。
それでもひろみちゃんは、泣いて赤くなった目でぼくに対して笑いかけた。
「ありがとう。私も楓くんと一緒に体育係ができて、すっごく楽しかったよ」

全員がお別れの言葉を言い終わると、皆で作ったたくさんの折り紙をひろみちゃんに渡した。
この3週間、折り紙が得意なひろみちゃんに教えてもらいながら、皆で必死になって折ったものだった。
ひろみちゃんはそれを満面の笑みで受け取った。
「みんな、本当にありがとう」
ふと窓の外を見ると、大きなカタツムリが国道沿いをゆっくりと移動していた。

翌日体育館で行われた「移ろいの式」は、昨日の感動的なお別れ会とは打って変わって、淡々と進められた。
ぼくたちの学校では3カ月ごとに普通学級から「しずくの家」へと生徒を送り出す「移ろいの式」が行われ、毎回5人前後が送り出される。
そのため、「移ろう子供」がいないクラスと、「移ろう子供」がいるクラスで温度差が全く違うのは毎度のことだった。

式では、送り出される子供たちそれぞれが、これまでの人生の振り返りと周囲の人への感謝を思い思いに話していた。
事の重大さがいまいち分かってなくて、ただ好きだった食べ物を楽しそうに話す1年生。
拙くありつつも、しっかりと自分の言葉で思いを話す、3年生のひろみ。
毅然とした佇まいで、これまで支えてくれた人への感謝を口にする6年生。
この3週間、運命を受け入れて過ごした1人を間近で見てきたぼくたちにとって、そのどれもがとても切なく感じられた。
「移ろいの式」を終えて教室に移動している時、誰かがぽつんと言った。
「これでようやく、落ち着いた毎日が戻ってくるんだね」

3.
それから時は過ぎ、僕たちは5年生になった。
あれから2年の間、僕たちのクラスからは「しずくの家」に行く生徒は出ていない。
このクラスはもう誰一人として欠けることなく、人間の姿で小学校を卒業し、中学校に上がることができるのではないか。
そんな楽観的な空気感が纏い始めた9月の半ばに、それは起こった。

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