•主人公 憂一(ゆういち)
•主人公の妻 ツマ子
•主人公の息子 長男(ながお)
•主人公の娘 オト(=弟か妹の意味)
•長男の妻 蝶子
ーー平成26年(2014年)、8月13日ーー
今年は俺の初盆だ。俺は去年の秋に死んだが、この日に初めての里帰りをし、今は我が家の屋根の上にいる。
朝からアブラゼミが雄々しい声で合唱している。今日もムンムンムシムシ厳しい暑さになりそうだ。
太陽は分厚い雲に隠れているが、雲の端っこから地上に向かって直線上の陽光が何本も降り注いでいる。今はちょうど日の出の時間なので、空は黄金の色に染まって見える。「天使の梯子」が出現するようでは、あいつはまだ死なないだろう。
部屋の中をのぞきこむと、あいつーー俺の妻であるツマ子が使っていたベッドが見える。そのすぐ近くで、息子のナガオが冷房をかけたまま、窓を開けて掃除機をかけている。
ナガオは普段は仕事をしているが、週末は必ず介護施設に行かなければならないので、疲労を隠せないでいる。頬はやつれて、顔色が悪い。身体も随分と細くなってしまった。あまり水分を摂らない奴だから、夏バテしているのかもしれない。
お盆休みぐらいゆっくりしたらいいのに、辛いことが絶えないから、動いている方がいいのかな。
掃除が終わると、ナガオはお仏壇の花を代えてくれた。瑞々しいチョウセンマキの枝だ。庭のあの辺りにはアシナガバチの巣があるから、気をつけろよ。
俺には娘のオトもいるが、今は電車で片道2時間半かかる大都市に住んでいる。いま、オトの旦那が入院していることもあり、兄のナガオに介護費用を仕送りしているのだ。オトはオトで大変だ。
「憂一、おかえり、久しぶりやの。もうどこも痛くないか?」
と、温かく懐かしい声が聞こえた。目の前の灰茶色の大きなもやが、だんだんと人間の形になる。俺の親父だ。恋しくて、会いたくてたまらなかった俺の父親だ。
「ああ、大丈夫だよ。親父、ずっとここにいたんだろ?やっぱりまだ苦しいのか?」
と、俺は胸に熱いものが込み上げるのを感じながら答えた。親父は、
「今日はだいぶマシだ。64年ぶりにおまえに会えたからな。」
と、青白く膨れ上がった顔をニカっと綻ばせて、歯を見せた。ここで親父は俺のすぐ隣に座った。
「それと憂一、母さんも一緒にいるんだろう?元気にしてるか?」
親父の質問に、俺はつい笑ってしまった。
「天界にいる人(憂一の母)に元気かだって。生きてた頃とおんなじで、楽しそうに花を植えてるよ。これから俺の従弟のトシロウが天国に来るから、そのお出迎えの準備で忙しそうだな。まあ、叔母さん(憂一の母方の親族でトシロウの母)も叔父さんもいるし、花がいっぱい咲いてるから、トシロウも楽しく過ごせるよ。」
「そうか、母さんは死んでも変わらねえな。トシロウくんはまだ若いのになあ。こればかりはどうしようもないが、可哀想にな‥‥‥。」
と、親父は目を細めて微笑んたが、すぐに切ない表情を浮かべた。
「ところで憂一、ツマ子さんのベッドの頭は東向きに置いてあるわな。左手側に寝返りをうったら、ベッドの前足のあたりの畳が捲れ上がってるのが見えるぞ。あれはなんだ?」
と、俺の顔を見て訊いた。
「ああ、あの畳の穴のことか。あれ、俺がくたばる前にやったんだ。」
と、俺は親父の顔を見てニヤリと含み笑いをした。

























沈丁花です。新作の執筆に行き詰まり、前回の作品を読んでいたら、アナザーエンドが出来てしまいました。″デルタ″には「違い」「変化」という意味があります。
沈丁花です。このお話の前半部分は、原作とあまり変わりません。後半部に新たに肉付けし、違う終わり方にしました。