そう言った先輩は、僅か1㎝くらいの隙間から呆然と教室を覗いていた俺と目が合い、柔らかく微笑む。
勢いよく振り向いた遊佐は、反動で後ろに倒れそうになって、頭のポニーテールがなんか残像を残したように見えたのは、きっと俺がショックを受けていて、周囲の動きがスローモーションみたいになっていたからだろう。
俺に発言を求めた先輩を無視するなんて、本来はあり得ない行動だったけど、俺は何も言わず、その場を離れる。
なんて言っていいかなんてわからなかったし、何にも言えそうになかったからだ。
もし今、口を開けばきっと――
「杉崎っ!」
逃げるように廊下を歩く俺の後を追いかけてきたのは、先輩ではなく遊佐だった。
「杉崎っ、ちが、あたし――」
「遊佐が俺のことどう思ってたか、よくわかったわ」
俺は立ち止まり、振り向く。
俺の顔を見て一瞬身を竦ませた小柄な遊佐を見下ろす目が、怒りに満ちているのを感じながら。
「俺、お前のこと勘違いしてたわ。すげーいい奴だと思ってた。でも全然違ったわ。めちゃめちゃ馬鹿にされてたのな、俺」
ほんと、馬鹿みてーだわ。こんな奴に感謝してたのが。
「笑ってたんだろ? ていうか、俺が振られるのを見て笑いたかったのか? そしたら予想外に先輩が友達ならって言って、俺を振らなかったから、もう一回俺が告って、今度こそ振られるところを揶揄ってやろうって思ったんだろうな」
こいつはほんとにクソヤローだ。とんだ裏切り者だ。こいつを信じてた自分にムカついてくる。
「違う! そうじゃなくて……そうじゃないの!」
「いやもういいわ。話したくもないわ。女にキレるなんてカッコ悪いかもしれないけど、俺もう無理だわ。マジで」
本当に、ショックだった。別に親友だと思ってたとか、そんな強い絆みてーな感情があったわけでもないけど、でも、俺は、信じてたんだ。
遊佐が応援してくれてるって。だから、もう一回ちゃんとしようって。
それなのに。
「違うの! 馬鹿になんてしてない!」
「だからもういいって――」
「あたしだって、杉崎のことが好きなんだもん!」
「……なにそれ。クソみたいな計画がバレて、俺のこと好きだったってことにしようとしてんの?」
「そうじゃない……ほんとに、一年の頃から、ずっと好きだった」
「はいはい」
「信じてもらえないかもしれないけど、ほんとだもん」
「しつけーな。証拠でもあんのかよ」
「あるよ。……これ」
遊佐は、自分の黒くて長い髪を両手に持って、俺に見せつける。


























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