その中に篠原がいた。
元気な頃の姿の彼は湯船に浸かったまま俺の方を見ると、満面の笑みを浮かべながら手招きするんだ。
お前もこっちに来いよと。
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そして1月最後の日曜日の午後に、俺は実奈と一緒に遅ればせながら初詣に出かける。
自宅近くの小さな神社は人影も疎らで閑散としていた。
手水舎で手を清めた後、薄曇りの空の下参道を二人歩く。
本殿正面へと進むと二人並び立ち、各々静かにお賽銭を投げ入れた。
それから鈴(りん)を鳴らそうと綱に手を掛けようとした時だ。
どこから来たのか一匹の虫がピョンと賽銭箱の縁にとまった。
見るとそれは鈴虫。
実奈が目を丸くしながらボソリと呟く。
「ど、どうしてこんな季節に鈴虫が、、」
鈴虫はしばらくすると、リンリンリンと羽を鳴らし出した。
やがて鈴虫の音は止む。
俺たちは改めて鈴を鳴らし二拍手すると、
合掌した。
その時俺は自分の願い事の最後に篠原のことを思う。
─篠原、成仏してくれよ
それから最後に二人礼をすると踵を返し、
再び参道に視線をやった途端、ハッとした。
いつの間にか境内が暗くなっている。
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