私は彼に今の状態を伝えた。彼は女が見えていないようで、だからか金縛りにあうこともなかった。怪訝な目をしながら、彼は私のバッグから御札を取りだし、窓に貼り付けた。
その瞬間、女の笑顔が急にくしゃりと歪んだ。目は血走り、顔には血管が走り、口角はビリリと音を立てて裂けた。そしてその顔のまんま窓をダン!ダン!と蹴り出した。部屋全体がキシキシと音を立てて揺れる。窓には亀裂が入った。
スタッフの彼は驚いて尻もちを着いた。彼に目をやったそのほんの一瞬で、女はどこかへいなくなっていた。どこに行ったのか…分からなかったが、部屋中に御札を貼り、もう1枚の御札を貰い、その時は眠った。
ーー
眠かったので何時かは覚えていないが…。ある時、息子がトイレに行きたいから、着いてきてくれと起こしに来た。私はトイレの前で待機していた。だが、一向に息子は出てこない。3分ほど経った時、声をかけた。
「大丈夫か?お腹痛いのか?」
「ん…うぅ…あぁ…」
「どうした?」
「う…う…、う…う…」
「…部屋に戻るぞ。5分後にまた様子見に行くからな」
私は寝室に戻った。
そこにはなぜか、息子が寝ていた。スピー、スピーといつもの寝息を立てている。だが息子はトイレにいたはず。私はそれを見届けたし、今まで出てきてない。
ふとホテルの部屋の入口を見た。私は廊下の光が差し込んでいることに気がついた。ドアが開いていたのだ。誰も開けていないし、鍵も閉めた。ふと壁一面に先程貼られた御札を見ると、それにグレーの石膏のような液体が手形のように付着し、灰色の紙切れになっていた。私はもう1枚の御札を手に取ろうとした。
だが、その瞬間のことだった。後ろから、ふと肩に手を置かれたのだ。恐る恐る振り返る。そこには、例の女が、目を見開き、口角を大きく上げ、満面の笑みでこちらを見つめていた
私は反射で女の手を跳ね除けたが、勢い余って背中から布団へ転んでしまった。女は何もせず突っ立って、こちらを見ている。家族がまたうなされだした。娘も泣き出した。
全身から冷や汗が吹き出す。私はヤケになって、女を突き飛ばした。表情ひとつ変えず、まるで彫刻のように倒れた。私は彼女を思いっきり殴り続けた。それでも、彼女はこちらを見て笑っていた。
私は冷静になり、あの御札を手に持った。
その瞬間、女はいきなり暴れだして、私に掴みかかろうとしてきた。だが私はそれごとまとめて、女の白いワンピースに押し付けるように、御札を貼り付けた。
白いワンピースが黒に染まる。女は一点、呆然とこちらを見つめ、こちらに対し大声でなにかを叫ぶように怒り出した。しかし、ワンピースが完全に黒に染まり切った時。女は急にしゃがみこんで泣き出し、静かに消えた。
その瞬間、トイレが流れる音がした。恐る恐る個室を確認しに行ってみたが、その中には何もいなかった。
寝室へ戻ると、外から薄暗く、微かに明るい光が差し込んでいた。私は警戒しながらも、深い眠りについた。
ーー
これ以降、私たちに起きたことはない。女を殴った時に石膏のような液体が着いてから、現在に渡るまでそこが爛れるほどの炎症を起こしていることを除けば、だが。
























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