──村ノ北端ニ“しるしノ環”アリ。児童ヲ以テソコニ立タシメ、帰リ道ヲ問フ。答ヘラレザル者、翌日ノ出席ヲ欠ク。
文意は曖昧だが、“しるしの環”という言葉が妙に引っかかった。
帰り道を問う儀式。
答えられない者は翌日、欠席。
まるで、俺たちの白線遊びの原型のようだった。
読み進めるうち、ページの隙間から古い紙片が落ちた。
小さな便箋に、墨で書かれていた。
──かえり環。
──ひとり足りぬとき、環はずれる。
思わず息を呑んだ。
俺が小学生のとき見た白線も、確かに少しずつずれていた。
背後で声がした。
「その資料、あまり読む人はいないんです」
さきほどの店主がいつの間にか背後に立っていた。
彼は俺の肩越しにページを覗き込みながら、
静かな声で続けた。
「“しるしの環”は、この地方特有のものです。
昔の子どもたちは、ひとりずつそこに立たされて、
“帰り道”を問われたといいます」
「帰り道?」
「ええ。“どこへ帰るのか”。
答えられない子は、帰れなかったそうです」
店主は目を伏せ、
まるで昔話の続きを語るように呟いた。
「この辺りの子は、みんな“ひとり足りなかった”んですよ」
意味を問い返そうとしたが、
その時、棚の奥で何かが“コトリ”と鳴った。
視線をやると、アルバムのような黒い背表紙が一冊、傾いていた。
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