黒澤第一小学校が地図から消えている――
その事実を確かめるうちに、俺は奇妙な感覚にとらわれていた。
たとえば、自分の記憶の中の風景が、
少しずつ形を変えていくような。
グラウンドの端にあった大きな楠の木、
職員室前の掲示板の古びたポスター、
教室の黒板に書かれていた「努力は嘘をつかない」という標語。
それらの細部は思い出せるのに、
肝心の“学校の外観”がどうしても思い出せない。
校舎は何色だった?
鉄筋? 木造?
窓の数は?
記憶が、まるで途中から塗りつぶされているようだった。
取材の手がかりを求めて、俺は古書店を訪ねることにした。
地方の郷土資料を扱う書店が、駅前の路地裏に一軒だけ残っている。
店の名は〈柳樽堂〉。
古い看板の文字はかすれて読みにくかったが、
窓越しに見える埃っぽい背表紙が、どこか懐かしかった。
中に入ると、湿った紙の匂いと古木の軋みが迎えてくれた。
カウンターの奥から、細身の男が顔を上げた。
四十代くらいか。黒縁眼鏡をかけ、声は低く落ち着いていた。
「郷土資料をお探しですか」
俺が頷くと、男は棚を指差した。
「この辺りなら、黒澤村史とか、旧校区の学校誌がありますよ」
黒澤――。
その名を聞いただけで、胸の奥がざわついた。
棚を探っていると、ひときわ古びた冊子が目に留まった。
『黒澤村学校誌 昭和二十三年度』。
表紙は褪色し、端がほつれている。
ページをめくると、墨で書かれたような活字の中に、
こんな一文があった。























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