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意味怖(意味がわかると怖い話)

どこかで見た話さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

白線
長編 2025/11/30 12:30 2,278view

 黒澤第一小学校が地図から消えている――
 その事実を確かめるうちに、俺は奇妙な感覚にとらわれていた。
 たとえば、自分の記憶の中の風景が、
 少しずつ形を変えていくような。

 グラウンドの端にあった大きな楠の木、
 職員室前の掲示板の古びたポスター、
 教室の黒板に書かれていた「努力は嘘をつかない」という標語。
 それらの細部は思い出せるのに、
 肝心の“学校の外観”がどうしても思い出せない。

 校舎は何色だった?
 鉄筋? 木造?

 窓の数は?

 記憶が、まるで途中から塗りつぶされているようだった。

 

 取材の手がかりを求めて、俺は古書店を訪ねることにした。
 地方の郷土資料を扱う書店が、駅前の路地裏に一軒だけ残っている。
 店の名は〈柳樽堂〉。
 古い看板の文字はかすれて読みにくかったが、
 窓越しに見える埃っぽい背表紙が、どこか懐かしかった。

 

 中に入ると、湿った紙の匂いと古木の軋みが迎えてくれた。
 カウンターの奥から、細身の男が顔を上げた。

 四十代くらいか。黒縁眼鏡をかけ、声は低く落ち着いていた。

 「郷土資料をお探しですか」

 俺が頷くと、男は棚を指差した。

 「この辺りなら、黒澤村史とか、旧校区の学校誌がありますよ」

 黒澤――。
 その名を聞いただけで、胸の奥がざわついた。

 

 棚を探っていると、ひときわ古びた冊子が目に留まった。
 『黒澤村学校誌 昭和二十三年度』。
 表紙は褪色し、端がほつれている。
 ページをめくると、墨で書かれたような活字の中に、
 こんな一文があった。

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