その時。
「また置いていかれるのかなぁ?」
声がした。
…いや、正しくは、ずっとしていた。
自分達の後ろ、トンネル内部から。
“自分達の声が、トンネルに響いているだけ”
そう思い込もうと、無視をしていたその小さな声は、ついに言葉が聞こえる程まで私達に近づいて来ていた。
揃って固まった私達の背後で、声はどんどん近付いてくる。
「ね、やっぱ置いていくのかな?」
「置いてかれちゃうのかなぁ?」
「連れていくのかな」
「一緒に行くのかなぁ」
ずっと聞こえていた声が、ふと途切れた後。
「ねえ、そんなところにいたら、おちちゃうよ?」
その声は、私達の真後ろから聞こえた。
直接、耳に囁かれているような近さから。
「ぎゃあああ!!」
兄が悲鳴を上げたのをきっかけに、兄妹2人で車に向かって走り出す。
振り向いた私達の背後にも、駆け抜けたトンネルの中にも、誰も居なかった。
ただ、何か居る。
間違いなく、何かが居る。
車に先に到着した兄が運転席に飛び乗って、少し遅れて私も慌てて助手席に。
エンジンが掛からない。なんて事もなく、車は何事もなかったように発進して、ホッとした瞬間。
「もう、きちゃだめだよ」
耳元で、さっきと同じ声がした。
数年後、私が社会人になった頃、兄が死んだ。
自殺だった。
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