これはある特殊な職業の間では有名な話です。
「易」というのはご存じでしょう。よく夜の駅周辺のガードの下とかに、持ち運び
出来る机と椅子に座り「易」「手相」と書いた灯を立てて座ってる人の事です。
今はそんなにたくさんの「易者」さんはいませんけど、ひと昔は結構いましたよね
実はこの職業というのは先生がいまして、先生に教えてもらい許可がでたら指示された
場所で行える職業なのです。
先生も複数いましてね。机を出せる場所も縄張りのようなものがあるのです。
駅の近くや繁華街の周りが多いというか、人が多く行き交う場所と言うことになります
夜中まで客待ちするので、その日の売り上げは翌日に先生に報告して定期的に納めます。
先生に指定された場所に人の通りが少なくても我慢して従わないといけません
それは縄張りがあるからなんですね。
そして絶対に居てはいけない場所も存在します。
手相見の先生にようやく許可されて「易」の灯を先生から買えたA君は先生に指定された
駅の近くに折り畳みの机と椅子を自転車に縛りつけて夕方に現れて、夜中まで「易者」の
仕事を始めました。
反対側のガード下には兄弟子というか同じ先生に習っていた年配のオジサンがいるはず
です。
出て来る欠伸を我慢しながらジッと座って興味を示した人を待つのです。
女性の二人連れや若い男女、少し酔った人がふらりと目の前に座ります。
晴れた日ばかりではありません。雨が夜から降り始める事もあれば、風が強い日もあり
まつたく人が通らない日もあるのです。
A君自身は「易者」や「人相見」に興味がすごく在ったわけではなく、組織や会社に向いて
ない自分が出来る仕事として選んだだけの事で、さほど熱心でもありません。
よく目の前を通る人に声をかけたりもせず、いつも目を伏せていたり本を読んでいたりと
夜中の一時過ぎて電車が無くなる前には机を畳んで家に帰っていました。
「一度、こちらに来なさい」と先生に言われ、もっといろいろと工夫して人の興味を引く
ように努力してみてはどうか?と言われたA君は「場所が悪いのです」と先生に言い返して
しまいました。
























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