これは同業の不動産屋から聞いた話です。
その不動産屋さんが懇意にしているお客様はいくつかのアパートや土地をもっていました。
普段は穏やかでとても親切でしたので、大きなトラブルもなくて、「いい大家さん」だった
わけです。大地主の二代目だったそのお客さんが、突然店に訪ねてきたのです。
「あのアパートをすぐに売りに出したい」と何件かのうちの一つのアパートを売ってくれ
と言うのです。理由を聞いても「なるべく早く買い手を見つけて売ってほしい」と言うの
です。「オーナーチェンジ物件」となりますが、収益も悪くないし、住人に問題があるわけでも
ありません。
こうしてその不動産屋は買い手を探して、お客様のいうとおりそのアパートを売ったのです。
不思議なことが起こったのはその数か月後でして
アパートの後ろのビルが火災になり死者もでるような大惨事になったのです。
数部屋が黒焦げになってしまい、買った人が大きく損害を被ることになりました。
それから二年ほど経って、不動産屋は大家さんと話をする折に
「あの時、どうしてアパートを急いで売ったのですか?」と聞いたところ
すっかり忘れていたのか「なんのこと?」と穏やかに聞き返されてしまい、当時の経緯を
話したのです。大家さんは「ああ・・あの時のことか」と思い出し、「あれはね・・・」
「まあ、あんまり言えない事なんで」と話したくないようでしたが
「夢に死んだ父親が出て来て「今すぐ売れ」と命令されたんだよ」と言うのです。
「じゃ、火事になる事も判ったということですかね?」と聞くと「違う違う」と手を
振りながら「夢に怖い顔でオヤジが出て来るんで、改めて見に行ったんだよ。
そうしたらさアパートの後ろのビルから黒い靄のようなものが出ててね。気味が
悪くなってオヤジの言う通りにしようと思ったんだよ」と言ったのです。























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