「なぁ、さっきのエレベーターで
乗ってきた人って、お前の知り合い?」
心臓が止まるかと思った
「え?誰も乗ってきてないだろ」
「嘘だろ。エレベーター、途中で止まったじゃん。
あの白い服の女、ずっとお前の後ろに──」
そこまで言った途端、友人は顔を真っ青にし、
玄関の方を見たまま固まった。
俺は振り返る勇気がなく、
ただ缶を握ったまま手が震えていた。
しばらくして、友人はふらつきながら帰っていった。
「わりい、俺もう帰るわ、、」
呼び止めても、返事がない。
──その日から、夜、部屋の外で
コツ…コツ…と誰かがドアを叩く音が聞こえるようになった。
俺はいてもたってもいられず引っ越しすることに決めた。
管理会社に問い合わせたのはそのころ。
あの日以来、胸の奥に残る違和感を消せなくて、事実をきちんと突き止めたかったからだ。
管理室の窓口に座っていたのは、物腰の柔らかい中年の女性。
最初は事務的に、しかし話が進むにつれて顔色が曇っていった。
「8階ですか……あのフロアはね、確かに“人がいない”フロアなんです」。
そう言って、彼女はファイルを開いた。
・数週間前の通報記録(騒音/トラブル)
・その後の警察・救急の出動記録
・“建物管理”名義で出された封鎖の手続き書類
だけど、彼女の表情は最後まで割り切れないものだった。
「公式には“住人不在”という扱いですが、正直なところ、あそこは“片付けきれていない”部屋があるんです。警察の捜査が終わった後、すぐに業者が入るはずだった。でも──その業者が予定通り来られなくて。建物の補助鍵も、誰かが持ち出していると記録が残っていてね」
僕は息を呑んだ。管理会社の言う“誰か”とは誰だ。
彼女は少し前屈みになって、声を落とした。
「実は、深夜にエレベーターが勝手に止まるという報告、うちだけじゃないんです。清掃員や夜勤の警備員が“8階の前で急にランプが点く”って何度か聞いてます。でも監視カメラには“何も映っていない”。カメラのログは時々、数分だけ欠けることがあるんですよね──ちょうどその時間帯に」























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