友人Aが、小さく呟きました。
スマホを耳に当て、眉をひそめて。
「……あれ……何これ……?」
冗談かと思い、枕を投げて反応を見た。
しかし彼は、まるで硬直したかのように微動だにせず、スマホから耳を離さなかった。
「おい、どうした」
声をかけても返事がない。
しばらくして、友人Aは震える声で言った。
「……録音してたんだ。思い出のためにみんなの話……。俺と〇〇(語り手)の部分まではちゃんと聞こえるのに……」
ごくり、と喉が鳴った。
「あいつ(友人B)の話のところだけ、全部……ノイズになってる」
スマホを渡され、再生した瞬間、私は息が止まった。
たしかに、私とAの声は普通だった。
しかし友人Bの番になると、音が――途切れ、歪み、テレビの砂嵐のような
“何かが上から擦れているような高い鳴き声”に変わっていた。
しかも、その声は明らかに彼の声ではなかった。
高く、細く、耳の奥を爪で引っかくような声。
まるで、話していた場所に“別の何か”が入り込んだかのように。
全員が同時に再生を止めた。
誰も喋らず、誰も笑わず、誰も動けなかった。
その沈黙の中、友人Bだけがぽつりと言ったのです。
「……ほらな。俺、守られてるんだよ」
その声が、妙に嬉しそうで、しかしどこかで――他人事のようだった。
その翌日。
帰りのフライトで、友人Bは突然激しく嘔吐し、そのまま救急車で病院へ運ばれました。
診断は食中毒。
原因は不明。
同じものを食べ、同じ場所にいて、他の誰も体調を崩していなかったのに。
退院した彼は、その話を一切しなくなった。
あの録音も、なぜか端末ごと初期化されていた。























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