俺たちが通された客室と、台所。この三つの部屋しかない。
風呂もトイレも、どこにも見当たらなかった。
「……なんか、変だよな。」
亮介がぼそりと呟く。
「もう戻ろうぜ。あの男に見つかったら――」
そう言いかけたその時だった。
“ペタリ”
足元から、妙な感触が伝わった。
床を見ると、鹿や小動物の皮が絨毯のように敷き詰められている。
だが、その皮の隙間から、鉄の取っ手のようなものが覗いていた。
「……なんだ、これ。」
亮介がしゃがみ込み、皮をめくる。
すると、そこには木の板で塞がれた“扉”があった。
真ん中に古びた取っ手。埃まみれだが、明らかに最近開閉された跡がある。
「……地下、か?」
俺たちは顔を見合わせた。
次の瞬間、心臓の鼓動が一段と速くなった。
亮介が俺を見た。
その目には、恐怖と――それでも抑えきれない好奇心が入り混じっていた。
「……見てみるか?」
「マジで言ってんのかよ……」
「ちょっとだけだ。すぐ戻る。」
台所の方からは、まだ“コトコト”と鍋の音がしている。
男はまだ料理をしているようだ。
俺たちは息を殺しながら、ゆっくりと床の取っ手に手をかけた。
冷たく湿った金属の感触が、掌にじっとりと貼りつく。
「……せーの」
ギィィ……と、錆びた蝶番が悲鳴のような音を立てる。
次の瞬間――
ふわりと、鉄のような臭気が鼻を突いた。
それは血と腐敗が混ざったような、生温い臭いだった。
この話は怖かったですか?
怖いに投票する 66票


























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。