その言葉で、俺の理性の糸がプツンと切れた。
俺たちは声を殺して、一目散に廊下を戻った。
床が“ギシギシ”と軋む。
音を立てるたびに、男が振り向くんじゃないかと心臓が喉から飛び出しそうになる。
ようやく客室の扉を開けて中に転がり込むと、
ドアを静かに閉め、背を預けたまま息を荒げた。
「……見たか?」
亮介が小声で問う。
俺は頷くことしかできなかった。
頭の中では、あの斧の刃と、赤く濡れたまな板が何度もフラッシュバックする。
「なぁ……あれ、何を……潰してたんだと思う?」
俺は震える声で言った。
「……たぶん、なんかの動物じゃねぇか? 鹿とかさ。」
そう口にしても、自分でも信じられなかった。
あの臭い、あの赤黒い色――どう考えてもただの肉じゃなかった。
しばらくの沈黙のあと、亮介が顔を上げた。
その目には、さっきの恐怖よりも“好奇心”が勝っていた。
「なぁ……もう一回だけ、この小屋見てみねぇか?」
「はぁ!? 正気かよ!」
「だってさ、もしかしたら……何かの勘違いかもしれねぇだろ。
ほら、確認だけ。ちょっと覗くだけでいい。」
俺は頭を抱えた。
「マジでやめとけって……」
けど、亮介の性格を知っている。
止めても、どうせ一人で行く。
だから結局、俺も亮介の後を追うことにした。
俺たちは息を潜めながら、小屋の中をそっと歩いた。
男はまだ台所にいる。包丁の音と、何かをすり潰すような“ぐちゃっ、ぐちゃっ”という音が聞こえる。
「今のうちだ……」
亮介が小声で言い、最初に入ってきた部屋をゆっくり見渡す。
部屋の中央には、無骨な木製のテーブル。
脇の暖炉では小さな炎がゆらゆらと揺れ、煤けた壁に影を落としている。
壁際には大小さまざまな斧、錆びたのこぎり、獣用の罠が雑然と掛けられていた。
























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