亮介が小声で俺の腕をつついた。
「なぁ……ちょっと見に行こうぜ。」
「は?」
思わず声が漏れそうになる。
「だってよ、気になんだろ? あの人、何作ってんのか。」
ニヤッと笑うその顔は、まるでガキの頃のままだった。
俺は止めようとしたが、結局、好奇心に負けて立ち上がっていた。
ギィ……と床板が軋む音を殺しながら、二人でそっと廊下に出る。
暗闇の中、奥の台所の方からは淡い灯りが漏れていた。
それと同時に――“キィ……キィ……”と、金属を擦る音が響く。
覗き込んだ瞬間、息が止まった。
男は、背中をこちらに向けて、何かを研いでいた。
鈍く光る刃――あの斧だった。
刃先には乾ききらない赤黒い汚れがこびりついている。
「……なんまいだ……なんまいだ……」
低く、湿った声で、何度も同じ言葉を繰り返している。
その横のまな板の上には、何かの“肉片”が散らばっていた。
血のような液体が滴り、床に赤い点を作っている。
やがて、男は研ぎ終えた斧を横に置くと、
今度はボウルに入った“何か”を素手で掴み、無造作に潰し始めた。
ぐちゃっ……ぐちゃっ……
その音が、俺たちの鼓膜を直接殴るように響く。
やがてそれを丸め、掌の上で団子のように転がした。
「……これでいい、これで……」
笑っている。
だが、その笑みは人間のものではなかった。
俺たちは、息を飲む音すら出せなかった。
背筋を冷たい汗が伝う。
“ぐちゃっ、ぐちゃっ”という湿った音が、まだ耳の奥にこびりついて離れない。
亮介が俺の袖を掴んだ。
顔は真っ青で、唇がわなわなと震えている。
「……やばい、やばいって……あれ、絶対普通じゃねぇ……」

























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