俺は実家の近所にある河川敷を歩いていた。
いつもの見慣れた風景だが聞き慣れない音が聞こえる。
それは誰かの悲鳴に近いような泣き声のようで、川の方から聞こえてくる。
そちらに目を向けると音の正体が分かった。
対岸に女の人が立っている。
死に装束のような白い服を着た女が何か泣き叫びながらこちらにお辞儀をしていた。
いや、よく見るとそれはお辞儀なんかではなく、腕を伸ばして体全体でこちらにおいでおいでをしている。
それを見たとき、
「ああ、またこの夢か」
と気づき、目が覚める。
——————————————————
昨夜私の家に泊まった友人Aは、朝食を食べているときにそんなことを語った。
どうやら少し前から同じような夢を見ており内容も不気味なので困っているそうだ。
「何度も見るからストーリーは覚えているんだけど、女の顔だけは綺麗サッパリ忘れるんだよなぁ」
そんなAのため息交じりのつぶやきを聞きながら、私は今朝のことを思い出していた。
早くに目が覚めた私は、小さな音量でテレビを見ていた。
後ろのソファからはAのいびきが聞こえる。
普段寝つきの悪い私が、他人の家でも熟睡できるAを少し羨ましく思っていると。
眠っているAが、
「もういいよ…やめてくれ、かあさん」
そう苦しそうにつぶやいていた。
朝食のとき、Aから夢の悩みを聞いた私は今朝の出来事を話すことができなかった。
川の向こうにいるのがAの母親で、こちらに来るように泣き叫んでいる。
私はAの母親が存命かは知らない。しかし、もし亡くなっていたらと思うと。
Aは今もあの夢に悩まされ続けている。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。