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大鷹恵さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

座敷フルボッコ
短編 2025/10/06 22:28 840view

「大鷹。「座敷フルボッコ」って知っていますか?」
行きつけの書店のレジでフェルディナント・フォン・シーラッハの新作「刑罰」の会計を終えた私に書店員の美杉セネルが唐突に話しかけてきた。
「座敷フルボッコ?もしかして、座敷童子みたいなやつ?」
「違いますよ。座敷童子とは別物だ。最近、俺の住んでいる地区によく表れて困るんだよ」
「はぁ?座敷童子って家に幸運を招く奴だよね?まさか、座敷フルボッコって家に災いをもたらす輩なんじゃ?」
「ああ。俺の住んでいる地区は土地開発が進んでいるのは知っているだろう?おそらく、土地開発のせいで座敷フルボッコが地区に活発的に出没するようになったんじゃないか?と思っている。それに座敷フルボッコには「自分の棲家」がない」
セネルは話を続ける。
「俺の住んでいる地区に昔、廃神社があったんだ・・・」

セネルが中学生の時、その地区には廃神社が存在していた。なお、廃神社は土地開発が始まった頃に火事で焼失していた。廃神社に不法投棄されたゴミが出火の原因であったという。昔から地区の大人たちは
「あの廃神社には近づかない方がええ。あそこには座敷フルボッコが住み着いておる」
と言っていた。セネルは通学途中に廃神社を通ることが多かった。廃神社は荒れ放題であったという。また、そこにゴミの不法投棄が相次いでいた時期があった。当然、近隣住民は困り果てた。そんな時、セネルは
「何なら俺がゴミの不法投棄が行われないように監視しますよ。廃神社はよく、通学の時に使いますから」
と発言し

「セネルすまないね。でも、出来るだけ廃神社には入らないでくれ」
と自治会長が言った。ちなみに自治会長は元新聞記者でベトナム戦争の時、南ベトナムに滞在していたことがある人物であった。セネルは自治会長からベトナム戦争の話を色々と聞かされたことがあった。自治会長の話の中にはベトコンによるテト攻勢をリアルタイムで目撃した話もあった。ちなみにテトとはベトナムでは旧正月という祝日の事である。自治会長曰く
「テト攻勢に関しては米軍が相手(ベトコン)をなめていたとしか思えないのだよ。ベトコンは祝日だからといって一時的に休戦にするとは限らんし」
と語っていた。こうして、セネルや近隣住人達による廃神社のゴミの不法投棄の監視を行う日々が続いた。だが、一向にゴミの不法投棄は相次いでいた。そんなイタチごっこが続く中、セネルは廃神社にて不法投棄の現場を押さえることができたのだ。それは12月に入ってからであった。その日は雪がポツリポツリ降り始めたのだ。セネルは廃神社を見る。そこにゴミを漁っている少女がいた。セネルは
「おい、あんた!」
と少女に声をかける。少女はセネルの方を向き
「なんだよ?ボクは何もやっていないよ!」
と言って、逃げようとする。セネルは少女を取り押さえる。少女は不法投棄のゴミの中に残飯がないか、調べていたそうだ。セネルはその少女はストリートチルドレンであることが分かった。
「あんた。名前は?」
「ルアン」
「よし、すぐここから離れるぞ」
「なんで?まさか、ボクを警察に連れて行くつもり?」
「そんなことはしない。いいから早く!」

ストリートチルドレンの少女-ルアン-はセネルを警戒しているようであった。セネルは漁っていた。なぜなら、廃神社から「肌の白い口裂けた男」が覗いてみていたからだ。そう、奴こそが「座敷フルボッコ」だったのだ!セネルは急いで、ルアンを連れて、廃神社を後にする。廃神社を後にした後、セネルはルアンを自宅に上がらせた。ルアンを風呂に入れている最中、自治会長に電話で不法投棄及び廃神社に住み着く座敷フルボッコの件の報告をする。自治会長曰く
「やはり、あの廃神社に住み着く座敷フルボッコを早めになんとかせにゃならん。そういえば、セネル?ストリートチルドレンを保護したという話を受けたが、そのストリートチルドレンの事で何か分かったか?」
「ええ。そのストリートチルドレンの名前は「ルアン」だそうです」
「まさか・・・。そのルアンって娘。目の下にハートマークの痣がなかったか?」
自治会長は狼狽気味でルアンの特徴を聞いてきた。なんと、驚くことにルアンの特徴と一致していたのだ。セネルは驚きを隠しながら
「自治会長の言う通りですぜ。もしかして、自治会長の知り合いなんですか?」
と質問する。自治会長は
「いや、なんでもない・・・。セネル、いつもすまないな、報酬ははずむぞ」
と会話を終える。セネルが電話を切るのと同時に風呂場から全裸のルアンが出てきた。せめて、バスタオル位してくれ・・・、と苦笑いをする。ルアンに自宅にあった古着を着せると、ルアンに夕飯を食べさせる。ルアンは夕飯を食べるとき、手づかみであった。
「なぁ、ルアン。あんた、どこから来た?」
「サイゴン。ボクの生き別れのファーザーを探しに。マザーはファーザーは日本に住む日本人だと、いつも、ボクに言っていた。マザーは病気(肺がん)で死んだよ。マザーは死ぬときも、ファーザーの事を愛していた。ボクもファーザーに会いたい」
とルアは父と母の写った写真を見せる。セネルは写真を見る限り、ルアンの「生き別れの父親」はセネルの住んでいる地区の自治会長ではなかった(むしろ、写真に写っている男性は韓国人である。つまり、ルアンはライダイハンという事になる。とどのつまり、ルアンの父親(韓国人)は「アイ・アム・ジャパニーズ」だと偽って、ルアンの母親と交際していたのだ)。しかし、自治会長はなぜ、ルアンを恐れているんだ?という疑問が残る。夕飯を食べ終えたルアンは
「今からボクと「プロレスごっこ」しない?」
と着ていた服と下着を脱ぎ始める。そのまま、セネルとルアンは「プロレスごっこ」を始めた。次の日の朝、セネルは起きるとルアンはいなくなっていた。外は雪が降り始めていた。そんな中、パトカーがサイレンを流しながら、自治会長の家に向かっていく。

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