奇々怪々 お知らせ

心霊

yukiさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

あの夏の日の勇気を私は今でも忘れない
長編 2025/09/27 18:54 3,933view

掴まれているのだ。

何者かが、私の足を捕らえて、海の底に引き込もうとしているのだ。

海中でもがき苦しむ私の視界の先で、海の底の闇の中の小さな瞳が私を見詰めているのが見えた。

…。

…。

ハッ!

自室のベッドで私は眼を覚ます。

夢だ。

あの時の夢だ。

夢だ。夢なんだ。

全身が汗まみれだ。胸元に滴る汗がパジャマを滲ませる。

ふぅ…。

ため息を吐いた私は、部屋の窓を開けて外気を入れる。

月の綺麗な夜だった。

夏に生温い夜風が私の部屋の淀んだ空気を入れ替える。

天気予報によれば、しばらく快晴が続くらしい。

世間は絶好の、海水浴日和である。

トラウマ。

心的外傷。

海は、私にとってのトラウマである。

だが、あれから十年余りが経ち、小学生だった私も、今は立派(?)な社会人となった。

大人になり、社会に揉まれれば、考え方も変わる。

今、私はもう一度、海に行こうと考えている。

恐怖を乗り越えてトラウマを克服したい。

勇気を出して。

だが、トラウマを克服をしようと考えた理由は、そんな情緒的なものではない。

社会人となり、交友関係も広がり、「海が嫌だ」「水が嫌い」などと言ってられなくなった。

水を怖がる私の言動は陰気と捉われ、つまらない女だと認識された。

3/9
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。