掴まれているのだ。
何者かが、私の足を捕らえて、海の底に引き込もうとしているのだ。
海中でもがき苦しむ私の視界の先で、海の底の闇の中の小さな瞳が私を見詰めているのが見えた。
…。
…。
ハッ!
自室のベッドで私は眼を覚ます。
夢だ。
あの時の夢だ。
夢だ。夢なんだ。
全身が汗まみれだ。胸元に滴る汗がパジャマを滲ませる。
ふぅ…。
ため息を吐いた私は、部屋の窓を開けて外気を入れる。
月の綺麗な夜だった。
夏に生温い夜風が私の部屋の淀んだ空気を入れ替える。
天気予報によれば、しばらく快晴が続くらしい。
世間は絶好の、海水浴日和である。
…
…
トラウマ。
心的外傷。
海は、私にとってのトラウマである。
だが、あれから十年余りが経ち、小学生だった私も、今は立派(?)な社会人となった。
大人になり、社会に揉まれれば、考え方も変わる。
今、私はもう一度、海に行こうと考えている。
恐怖を乗り越えてトラウマを克服したい。
勇気を出して。
だが、トラウマを克服をしようと考えた理由は、そんな情緒的なものではない。
社会人となり、交友関係も広がり、「海が嫌だ」「水が嫌い」などと言ってられなくなった。
水を怖がる私の言動は陰気と捉われ、つまらない女だと認識された。
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