トウマくんとマユさんへの基本的な対処法は、体当たりをする事である、と言われています。
しかし、彼らは人間をからかったり、利用したりして遊ぶ妖怪ですから、その体当たりという行動自体を利用して人間を傷つけたり、殺してしまう事もあります。
これは、とある女の子のお話です。
仮にAとしましょう。放課後、家路についていると、突然目の前に、焦げ茶色と黒のシャツとスラックスを着た高校生くらいの少年と同じく焦げ茶色と黒のワンピースを着た高校生くらいの少女が現れました。Aは驚きましたが、「こんにちは」と挨拶をしました。それに対して、二人はくすくすと笑うだけで挨拶を返しません。と、少年がおもむろに口を開いて、
「水晶は好きですか?」
と、尋ねてきました。なんの脈絡もない質問にAは面食らいましたが、なんとか、「えっと、好きでも嫌いでもないです…。」と答えました。そう答えた瞬間、二人が嬉しそうに、無邪気に笑ったように思いました。そして次に目を瞬いた時には、二人とも消えていたのです。あまりにも現実離れした体験に、Aはしばらく、その場で立ち尽くしてしまいました。そしてその日の夜。布団の中でうとうととしてきていたA。ふと、昼間の不思議な二人が脳裏に浮かびました。あれは白昼夢だったのか。そんな事を考えているうちに、Aの意識は眠りの中に沈んでいきました。そして、奇妙な夢を見た。そこは洞窟のような印象で、周囲の四方八方から大小もさまざまな茶色い水晶が大量に生えている幻想的な場所。その奥まった部分に、大きな台のような平らな形の茶色い水晶があり、そこにあの二人が腰かけている。Aはここはどこか、あなた達は誰か、と尋ねました。すると、少女の方がくすりと笑い、「ここは私達だけの場所。昼間に、あなたの事を気に入ったから、今夜さっそく招いたの。私達は煙水晶に憑いてる幽霊。私がマユで、彼が兄のトウマ。」と答えました。
Aは、それを聞いても納得がいきません。少女、もといマユさんは、自分と兄の事を幽霊だといったのです。自分の事を気に入ったから、と言われても、幽霊に気に入られるような事をした覚えはない。当たり前です。今日、突然出会ったのだから。なんだか急に不安になって、この状況が恐ろしく思えてきたAは、とにかく、帰りたい。この場所から出たいと言いました。すると、少年、もといトウマくんはせせら笑うような表情で立ち上がり、こちらを見下ろして言いました。「いいよ、今日は帰してやる。けど、また近いうちに来てもらう。僕達には、お前が必要だから。」そう言われてすぐに、意識が浮上して、自分のベッドで目が覚めました。Aは、ああ、よかった。ただの夢だ。と安心しようとしました。しかし、あの幻想的な水晶の空間、そのひんやりとした空気、美しい二人、その声音、最後に聞いた台詞へのどことない不安感まで、鮮烈に焼きついていました。しかし、そうして悩んでいてふと時計を見ると、もうそろそろ良い時間になってきていたので、ひとまず小学校に向かいました。間も無く、親友で幼馴染の女の子も登校してきました。仮にBとしましょう。Aは、元気がない、どうしたのかと尋ねてくるBに、昨日の家路での奇妙な体験と夢の事を詳しく語りました。Bは驚きながらも、Aが本当に元気がないので嘘ではないと悟り、もしまた同じような夢を見るようなら、お祓いにでも行けばいいと言いました。Bのいつも通りの明るい振る舞いを見て、Aも少し安心して、その後いつも通りに過ごして帰宅しました。その日の夜、またAは水晶の空間に招かれてしまいました。今度は、Aの身体が凍りついたように動きません。二人共が台から腰を上げて、Aの両脇に歩いてきます。
「今日一日、お前を観察してた。やっぱりお前は良いね。僕達の目に狂いはなかった。」と、
トウマくん。
「あら、兄さんが気に入って、私も気に入った物が悪いはずないでしょう。そろそろいただいてしまいましょう?」と、マユさん。
Aは、これから何をされるのかわからない恐怖でいっぱいでしたが、身体は震えもせず、ぴくりとも動かせません。そして、両脇を囲む二人におもむろに片手ずつを取られ、そのまま手を引かれて奥まった部分にある茶色い水晶の台座の元に連れて行かれました。進んでは行けないと思うのに、足が勝手に動いてしまいます。そしてそのまま、Aは台座に座らされて、その瞬間。Aの意識は、消滅しました。
翌朝、「みんな〜おはよう!」とAは元気よく教室に入って行きます。既に教室にいた子達は、いつもと違うAの様子に、目を丸くしました。いつもおとなしいAが、当たり前のように明朗快活に振る舞っている。まるで人が変わったように。しかし、戸惑いはしても、おはようと口々に返します。Aは満足げに笑い、自分の席に向かいます。見ていたBは、昨日の落ち込み加減など忘れ去ったように楽しげに語りかけるAを訝しげに見ていました。
























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