しばらくすると、牛乳と瓶カフェオレと紅茶を持って男性が帰ってきた。
「どうぞ冷めないうちに。
って、こりゃ冷てぇ飲み物でしたわ!ガハハ!」
「・・・自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。
日本記録情報庁の鹿島と雨宮と申します。」
「こりゃご丁寧にどうも。
風見ヶ丘牧場オーナーの山口と申します。
本日はよろしくお願いします。」
自己紹介が終わると、鹿島が切り出す。
「本日はUFOに乗られたということで、その時の状況を詳しくお伺いできればと思います。
我々、司法とは独立しており、逮捕権限等は有しておりません。
そのため、ここでの発言によって罰を受けるような事はないためご安心ください。」
「なんにも悪いこたぁしていないので大丈夫です。
その日はいつも通り牛の世話をしてたんです。
そしたら空にでっけぇ銀の円盤が浮かんでて、ビカーって照らされたと思ったら、体がふよふよ浮いて、横見たら世話してた牛、かよこっつうんですけど、かよこまでふよふよ浮いちまって。
んで、気づいたら真っ白な部屋でベッドみてぇなもんの上で寝てたんです。」
「それで、その後はどうされたのですか?」
「んで周りを見たら、かよこがいねぇ!ってなって、かよこー!かよこー!って叫びながら探し回ったんです。
でも、何の返事もなくて、UFOの中を探し回ったんです。」
「んで、探し回ってたらキッチンみてぇなとこ見つけたんです。
そん時、ピンと来ちまったんです。
まさか、宇宙人の野郎が肉牛と乳牛の区別がつかねぇもんだから、かよこを食っちまったんじゃねぇかと思ったんです。
そう思ったら頭に血ぃ登っちまって、冷蔵庫みてぇな箱とか引き出しを全部ひっくり返して、かよこの破片が残ってねぇかって探しちまったんです。
でも、出てくるのがなんか袋詰めされた柿の種みてぇなもんばっかでよ。
牛肉みたいなもんがなくてちょっと安心しちまって、ぶちまけた柿の種をよく見てみたんですよ。」
「そしたら、結構色とりどりのもんがあるなと思って赤いもんが入ってる袋を拾ってみたんですよ。
よーく見てみると、乾燥してごま粒サイズまで小さくなった唐辛子と苺が入ったんです。
で、次にピーナッツとグリンピースが入ってる袋を拾ってみたんです。
いや、逆に知ってるもんがあるのが異様だと思ってよーく見てみると、ピーナッツはピーナッツだったんですけど、グリンピースだと思ってたものは、乾燥して小ちゃーくなったゴブリンの頭だったんです。」
そう言うと、ログハウスの奥に行ってピーナッツとグリンピースのようになったゴブリンの頭が詰まった袋を持ってきて、鹿島達の目の前のテーブルに置いた。
鹿島は袋を手に取って中身を凝視する。
「たしかに、小さくなってはいますが、ゴブリンの頭部に見えますね・・・。
記録しといて。」
そう言うと鹿島は袋を雨宮に渡す。
雨宮も袋を凝視すると、何とも言えない嫌な表情をしてその袋の写真を撮影する。
「この袋だけ持って帰ってきたのですか?」
「いや、なんというか、その時はパニックなのかなんなのか、無事帰れたらこいつをツマミにして酒でも飲んでやろうと思って、咄嗟に懐にしまっちまったんです。」
罰が悪そうな表情で山口が答える。
「・・・食べてみたのですか?」
「まぁ、そのせっかく宇宙船からかっぱらってきたんで、無事帰れたことだし、ツマミにして酒を飲みました。
このでっけぇ地球の歴史で宇宙船に略奪働いた初めての男だと思うと気分がよかったんです。」
「・・・記録のためにお伺いするのですが、どんな味でしたか?」
もはや、鹿島は山口を宇宙人を見るような目で見ている。
「それが、絶妙な塩加減と苦味でつまみにピッタリなんですよ!
一個食ってみますか?」
山口は笑顔でゴブリンの頭部を勧めてくる。
記録員として円滑に記録収集するため、好意を無碍にはできない。
「・・・わかりました。一つだけいただきます。」
見れば見るほどゴブリンの頭部だ。
意を決して口に放り込む。
・・・確かに絶妙な塩加減と苦味だ。
見た目の奇抜さに目を瞑れば、もっと食べたくなるほど美味しい。
「絶妙な塩加減と苦味で美味しいっと・・・。」
わざとらしく聞こえるくらいの声量で雨宮が記録をとる。
雨宮のわずかににやけた口元を見て怒りを感じる。
「・・・それで、どうやって無事帰還されたのでしょうか?」
もう宇宙人の奇妙な食材については充分すぎる記録が取れた。
話題を変えたい。
「あ、で、キッチンを出たあとかよこを探し回ってたんですが、一瞬なんか物音がした扉がありまして、そこにかよこが閉じ込められてるんじゃねぇかと思ったんです。
それで、扉をバンバン叩いてかよこに声をかけてやったんです。
『かよこー!今助けてやるからなー!』
『もうすぐ助けてやるからなー!落ち着けー!』って。」
「もう扉をぶっ壊してやろうと思って体当たりしてたら、どっかからかよこの低い唸り声がしたんです。
こりゃいけねぇ、かよこが怒ってる。
ストレスでお乳が出なくなっちまうって思って唸り声のする方向に行ったらかよこが檻みたいなとこから出てくるところだったんです。
そしたら、かよこのやつ怒り狂って暴れ回りながらどっかに走っていっちまったんです。」
「UFOの色んなもんぶっ壊してて、こりゃまずいと思って、かよこを追っかけたんですけど見失っちまって。
ぶっ壊れた機械の跡を追ってたんですけど、突然光に包まれて気づいたら連れ去られた場所に大の字で寝てたんです。
かよこは!?って思って見回したら、暴れ回って疲れたのか、かよこが横で寝てたんです。
んで、空見たらUFOが遠くの空をふらふら飛んでるのが見えたんです。
あんなに色んなものぶっ壊しちまって、やつらは母星に帰れたんだろうか・・・。」
全てを記録し終えると鹿島は頭が痛くなった。
最近世間を騒がせたニュースを思い出したからだ。
とある山の山腹に隕石が墜落し、土砂崩れと爆風で近隣集落で甚大な被害が出たニュースだ。
オカルト界隈ではなぜか被害調査にNASAの職員が出向いていて、宇宙人の侵略戦争の前兆だとか、墜落したのは隕石ではなくUFOだとか話題になっていた。
また、とある集落から逃げ出した村民の記録によると、集落では隕石の墜落を山の神の怒りだとして村民を人身御供として捧げようとしていたとのことだ。
「・・・まるで災害のピタゴラスイッチね。」
と鹿島は愉快な気持ちになり思わず呟いてしまった。
「今日はありがとうございました。
貴重な記録をご提供いただきありがとうございました。
取材料については別途振り込みいたしますのでよろしくお願いいたします。」
そう言うと席を立つ。
車まで来ると振り返り挨拶をする。
「改めて本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。」
「なんの!機会があればまた是非お立ち寄りください!
美味い牛乳を用意しておきます!」
山口は笑顔で手を振る。
ふと鹿島の視界を小さい何かが横切る。
小さい子供の手が山口を指差している。


























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