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HiTsUZI1029さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

山爺と山婆の話
短編 2025/08/01 10:50 1,682view

とある山中に人口が100人程の小さな村があった。
その村には昔、山爺と山婆がいた。
これは、その二人に関する悲しい話。

村には二つの祠があった。その小さな祠の中には、一つには春になると毎年、白い椿の花が、もう一つには小さな茶色い小瓶と魚が添えられている。

時は昔、A村という村の、村の上にある山の上には山爺、村の下の川の近くには山婆が住んでた。山爺も山婆も、人と大きさはさほど変わらないものの、白くしわがれた長い髪と、長く鋭い爪を持っていて、どちらも、魚や動物を食べていたそうだ。
そんな二人の片方、山婆はいたずらや人を傷つけることが好きな性格をしていて、月に二度三度、村まで上がってきては人に害をなしていた。

山爺は、その度山から降りてきてはそんな山婆をなだめ、家まで連れて帰っていたそうだ。
人々は、山婆に対し酷くストレスを抱えており、怯えると同時、山爺がなだめているときは山爺にも石を投げつけたり、悪口を言ったりしていた。
山爺は温厚で優しい性格をしており、毎度、そんな村人たちに謝ってから、人を寄せ付けないような厳しい山の何処かにある、自分の家に帰っていったそうだ。

ある年は飢饉の年で、それは村人だけでなく山爺山婆にも害をなした。田畑は枯れ、野山は弱り、魚や動物たちも痩せ細り、その数を減らした。その厄災とも言える一年と少しの間、数カ月は何も食べずいられる山爺らも、その年ばかりは辛い思いをしながらも、鼠や堅餅を食べ、飢えをしのいでいた。

ただ、山婆は空腹によりストレスが酷かった。その為村人たちに加える害も凄まじく、普段は脅かしたり少し傷つけて反応を楽しむのが、獲物を狩るように、長い爪を突き立てて村人たちを夜な夜な襲った。そんな山婆からの害に耐えきれなくなった村人たちは、昔、山婆が村長を襲ったときに奪って持ち帰った「芋の焼酎」を、山婆が朝魚とりに行っている間にこっそり家に入って持ち出した。

焼酎は、神棚に供物として捧げられており、まだ手もつけられていなかったが、瓶に引っ掻いたような傷が見られたのでそろそろ飲もうとしていたことがわかった。我慢をしていたのもあって、山婆の凶暴性も上がったのだろう。
村人はその焼酎を村の真ん中の、古びた井戸の中に割って注ぎ込み、夜になるのを待った。
村の猟師は猟銃を構え、近くの茂みから山婆が来るのを待った。

さて、川から帰ってきた山婆の怒りは凄まじかった。焼酎を取られたのもそうだが、勝手に自分のテリトリー(家)に侵入されたことにも大きな怒りを覚え、家の中で暴れまわった。その後、村人達に復讐にまいろうとしたときだった。
井戸の中から焼酎の匂いがするのだ。発酵した匂いは鼻を刺激し、食欲を湧き立てた。
そう、熟成したバナナのような。芋の独特な「油臭」に誘われた山婆は、狩人の待つ井戸の前までふらふらとやってきた。
満月の日で、薄くだが山婆の姿はよく見えた。弾は二発、外したとしても次がある。
そして、ぼんやりとした雲があんぱんのような満月にかかりかけた、その時だった。

[[ドーーーーン]]

「ギャアアアアアアアアア」
銃声が夜の空に響いた。大地が震えると同時に、山婆の叫び声が聞こえた。

「やっとだ!」
安心した村人たちが家を出て、山婆の◯体を一目見ようと出てきた瞬間。
怒り狂った山婆が自分を撃った狩人を襲った。

明るかったといえど、時間は夜だ。夜の暗闇に焦点が定まらなかった狩人は、山婆を性格に撃てていなかった。腰に傷を負った山婆が狩人を襲おうとしたときだった。
そこに、山爺が来た。

月明かりに当てられながら山道を降りてくるその姿には老体ながら強い威圧感が宿る。
村人たちが怯えるなか、山爺は山婆のところへ行くと、山婆を抱えて山に帰ろうとした。
だが、ここまでした「敵」を逃がすわけにはいかない。

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