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不思議体験

HiTsUZI1029さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

月の影と弟と
短編 2025/07/31 11:06 511view

新車の窓から見る夜景、ふと気づくと曇り空から満月が顔をのぞかせている。

小さい頃によく信じていた、月にはうさぎがいる。また、大きくなると思う、月の影はうさぎの形をしている。
その影は世界の人からはカニ、ロバ、女性の横顔、ライオン、ワニのようにもみえるという。位置が違えば見え方も違ってくるのは当然だろう。

この日、僕と家族、父、母、弟2名は新車に乗り気分上々夜の高速道路を走行していた。
さすがは新車、見たこともない新機能に僕らは満悦していた。
冒頭でも話したが、その日は満月のようで、曇り空から顔をのぞかせた満月の光は強く、夜11時過ぎであるにも関わらず周辺の山々の風景がよく見えた。
水墨画のような美しい木々の風景に見とれていると、一番下、1歳ちかい弟が急に何かを訴え始めた。いや、
「あー、うー、あー」

何かを指さしながら話すその様子は訴えると言うよりも主張しているに近い。

弟は生まれてからそんなに泣かず、声も小さかったので、両親はそのことを心配していた。今回のように大きな声で沢山話すことは初めてのことだったので、皆、驚いていた。

暫く話すと弟は急にピタリと何も言わなくなった。そのとき、丁度月が隠れたようで、木々が見えにくくなり僕は背もたれを倒し、寝ることにした。その日は遅かったので皆疲れていて、外を眺め続ける弟と、運転をしていた父以外は皆、その後すぐに寝た。
雲しか見えない空を眺め続ける弟の様子は少し不気味で、自然ばかりを愛する僕には少し理解ができなかった。

その後弟が満月を見て話すことはなくなったが、あの日以降弟はうるさいくらい話すのが多くなったので、僕は嬉しい。

最近の満月は雲に隠れることも少なく、また家が山の近くであることもあり満月がよく見える。
僕達はよく、餅つきをするうさぎのような影を持つ月をみて月見をするのだが、あの日車の中で見た月程感慨深い月は今までになかったと思う。
あの日あの月を見て団子が食べられなかったこと、弟が指差す先、恐らく月であったが、その月を弟視点で見られなかったことを今でも僕は悔いている。

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