もう40年ちかく前になるのだが、
そのころに住んでいた町には、ある名物オジサンがいた。
頭文字がDで始まる、ある仇名で呼ばれていた。
Dは年齢は当時で多分30歳くらい。
本名や住所や職業などの正確なことは誰も知らない感じだった。
いつも工員風の服を着て帽子をかぶり、自転車に乗って走っていた。
なので、どこかの工場で働いていて自転車通勤をしているのだろう、
くらいに噂されていた。
Dはいつも自転車で町中を、かなりの高速度で暴走していた。
狭い道でもスピードを緩めず、広い道なら蛇行し急にUターンをした。
交差点にはノーブレーキで突っ込んだ。
唐突に謎のハンドル操作をして転倒した。
まさにdangerousなD、ドンガラガッシャンのD、だった。
だがなぜか、Dにぶつかられて怪我をしたとか、
D自身が怪我したらしいとか、
事故を起こしたという話は殆ど聞こえてこなかった。
私も何度もDが爆走している姿を見たが、
一本道を爆走していって何もないのになぜか突然に二輪ドリフト、
そして自爆転倒するのを見たことがあった。
手足の骨の一本や二本を折ってもおかしくない勢いだったし、
打ちどころが悪けりゃ死ぬかも、というくらいの転倒の仕方だった。
しかしそのときもDは特に怪我をしたそぶりもなく、
わりとあっさり立ち直り、また自転車にまたがり、
ハイスピードで走り去っていった。
その光景はコントのようでもあったが、怖い光景でもあった。
で、あの頃から40年はたっているのに、
ごく最近、激走するDを見た人がいたそうで
「いまだにDは走り続けている」
と噂になっているそうなのだ。
いったいDは何時まで何処まで走り続けるのだろうか。






















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