思い切って目を開けると周りには何もなかった。いつもの部屋が広がっているだけ。
ホッと胸を撫で下ろし視線を下に向けた。忘れていた。まだこれが残っていたのか。
私の体に覆いかぶさっていた白いモヤがモゴモゴと少しずつ動き、上半身、そして顔の方へ登って来ていた。
何とか体を動かそうと試みるが全く動かない。そうこうしている間にモヤは首付近まで来た。
声も上げようとするがひどく掠れた、声にもならない声が吐息の様に漏れるだけ。
ゆっくりとだが確実にモヤは顔を覆い尽くそうとしていた。
私にはそれに抗う術がもう無かった。モヤはゆっくりと顔に覆いかぶさった。
(重い……息苦しい)
そして何より氷の様に冷たかった。まるで誰かに氷枕を顔に押し付けられている様に冷たく苦しい。
必死に呼吸をするも満足に酸素を吸えず、徐々に息苦しさは増していく。このまま死んでしまうのだろうか。
朦朧とし始める意識と息苦しさの中、死という言葉が頭をよぎった。
その時だった。
「ねぇ……大丈夫?」
女性とも男性とも取れる声。低音と高音が混ざった感情の無い機械の様な気持ちの悪い声。不気味という言葉はこの声の為に出来た言葉と言ってもいいくらい気持ち悪く不安を煽る様な声色。
全身に悪寒が駆け巡った後、私は気を失った。次に目を開いたときにはもう朝だった。
果たして昨夜起きた出来事は現実だったのか、それとも夢だったのか。だがさっき囁かれたのではないかというくらい耳元にはあの声の感覚が残っていた。
もし現実だとしたらあの声は一体誰の声だったのか。白いモヤかそれともベッドの周りを走っていたケタケタと笑っていた何かの声だろうか。
もういい。夢だろうが現実だろうがどうでもいい。生きていてよかった。
風でたなびくレースのカーテンの奥、開いた網戸を見ながら私はゆっくりとベッドから起き上がった。






















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