「最近、あいつのとこばっか行ってんじゃん。なんかあんの?」
俺―アキトは親友のタクトの手に持たれた見舞い袋に目をやった。大学の帰り、俺たちはよく一緒に病院へ向かった。そこには、タクトの“友達”のユウヤが入院している。体が弱く、ほとんどの時間をベッドの上で過ごしているという男だった。
病室の扉を開けると、あの独特の消毒液の匂いが鼻についた。ユウヤは窓際に座って本を読んでいた。
「やあ、また来てくれたんだね。…アキト、君も一緒なんだ?」
「まぁな、暇だったし」
初対面のときはぎこちなかったユウヤも、今ではすっかり馴染んでいた。妙に優しく、過剰なまでに俺に気を遣ってくるのが少し気味悪かったが、不思議と嫌な感じではなかった。
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「ねぇ、アキトって昔はヤンチャだったよね。
しかも、アッくんとか呼ばれてさ。」
ある日、俺の彼女サユがそう言った。
サユは中学校からの同級生だ。
「まぁな。中高は暴れまわってたし、教師もビビってたよ。そう呼ばれたりもしたな。
でも昔の話だよ。今は違う。」
「そうだね。今は優しいもんね。」
サユは微笑む。きっかけはサークル仲間からの紹介だった。最初は気乗りしなかったが、思ったよりしっかりしていて、穏やかで優しい子だった。
最近ではずっと一緒にいて、ユウヤのお見舞いにもついてくるほどだ。
それでも、ふとした瞬間に思い出す。昔、ふざけて階段から突き落としたクラスメイトのことを。
「しゃーないよな。あいつが悪いんだから。」
そう口では言っているが、本当はそいつの名前も顔も思い出せない。ただ、どこかでユウヤと似たような雰囲気を感じていた。
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ある晩、タクトの誘いを断って、俺は一人でユウヤの病室へ向かった。今日は連絡せず、ふと思い立って立ち寄っただけだった。
病室を開けると、ユウヤはベッドに背を向け、窓の外をじっと見ていた。
「……ユウヤ?」
「……ああ、アキト。来たんだ」
声はあるのに、感情がなかった。表情もどこか無機質で、まるで別人のようだった。
「……なんかあったのか?」
「いや……ちょっと、調子悪いんだ。今日は、あんまり喋れそうにないかも」
俺が帰ろうとしたとき、ユウヤがぽつりと呟いた。
「……アキトってさ、人を階段から突き落としたことってある?」

























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