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呪い・祟り

Flounderさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

六甲降ろしのお地蔵様
長編 2025/06/12 22:37 6,396view
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彼女はどうやら地方から家出してきたらしく、その地域での捜索願は出されていませんでした。
身分証も連絡先が分かる物も、元々持っていなかったのか山中で落としたのか、半グレ達に奪われたのか見つからず、本名さえ分からないまま無縁仏として葬られたそうです。

Aは翌日、上官から「心労を癒す為」との理由で特別に1日休みを貰ったそうですが、その程度では心のもやもやは晴れませんでした。数日間Aはそのことを引きずり、演習や座学でもミスを連発してしまいました。

それを見かねたのが、退官間近のベテランでした。彼は演習中の事故で同僚や部下の死を何度か目にしており、その度に近所のお寺でお祓いを受けたり説法を聞いたりして気持ちの整理をつけたのだ、とAに教えました。
次の休みの日、Aはベテランに教えてもらったお寺を訪れ、和尚さんに話を聞いて貰いました。

お寺から宿舎に帰る途中、それでも「女性の為に何かしたいがどうすればいいのか分からない」という気持ちが残っていたAは、道沿いに有った石材店に気付きました。
その店先には、30センチほどのお地蔵様が見本品として置いてありました。Aは不思議とそのお地蔵様に気を引かれたそうです。お地蔵様を見ているAに気付いた店主が、「売り物じゃないんだが、そんなに気に入ったなら2万円(当時の価格)でいいよ」と快く売ってくれました。

そのお地蔵様を駐屯地に持ち帰ったAは、女性の遺体を見つけた場所にそのお地蔵様を設置しました。

演習中のおやつとして買い置きしておいた羊羹を備え(火事を心配して線香は供えなかった)、手を合わせてみたところ、不思議と落ち着くような気がしたそうです。

女性の遺体が発見された事件は駐屯地のほとんどの人が知っており、そのお地蔵様を見た人が通りすがりにお菓子などを供えていきました。
別の地域から来た、つまり事件の事を知らない自衛官も、「演習の安全を祈って」「この前うちの駐屯地で事故があったから」と、飲み物の缶やおやつを供えたり拝んだりし、いつしかお地蔵様の前には常に何かしらのお供え物があるようになりました。

それから数年後の事です。
Aは、真冬の夜中に駐屯地の見回りを行っていました。
雪の降る中、「ああ、あの事件の時もこんな感じだったな」と憂鬱になりつつ、お地蔵様の前を通ろうとした時でした。
Aは違和感に気付き、その辺りを懐中電灯で照らしました。

そこにお地蔵様はありませんでした。

お供え物が置いてあるので、Aがお地蔵様の位置を間違えているわけではありません。
「盗まれたのか?」とAは思い、上官に報告したそうですが、警察への通報や捜索は行われませんでした。

多くの隊員が拝んでいるとはいえ、そのお地蔵様は隊員が私物として置いた物を黙認していたわけです。
「備品でも何でもないものが、盗まれたと決まった訳では無い」として、自衛隊として被害があったという事実はないのです。
それに、当時から現在まで自衛隊と警察の関係は良くなく、駐屯地内に少額窃盗の疑い程度で警官を入れるのは憚られる雰囲気があったそうです。

「しょうがないか」と自分を納得させたAでしたが、遺体を見つけた時の様な日にこんな事が起こって、何か不吉というか不穏な空気を感じたような気がしました。

それから数週間後の事です。「「六甲降ろし」常習犯の半グレ3人とその愛車が最近姿を見せない」と、繁華街に飲みに行った自衛官の間で少し話題になりました。
しかし、「どうせショバを変えたんだろ」と、その3人がそれ以上話題に上ることはなく、Aもすぐに忘れてしまいました。

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