そして、決定的な夜が来た。
俺は夢の中で“誰かの母親”と争っていた。
泣きながら叫ぶ女の子。
怒鳴る女。
そして――女の子の手から包丁が振り下ろされた。
目が覚めたとき、俺の手は血で濡れていた。
台所に行くと、母が倒れていた。
胸から血を流して、苦しそうにうめいていた。
俺は包丁を握っていた。
でも違う。
俺じゃない。
“俺の夢を見た誰か”が、俺の体を使ったんだ。
「……春人?」
母が、かすれる声で呼んだ。
それが、最期だった。
それから大騒ぎになった。
しかし俺には、警察も、病院も、すべて夢のようだった。
「錯乱状態でした」「精神鑑定を」「未成年」「過去の病歴」
俺はただ一つだけ覚えている。
母が死んだ夜、夢の中で“あの獣”が笑っていたこと。
「夢を交換したでしょ?
君の時間と、誰かの時間。
これで貸し借り、なし。」
ユメカリ。
夢を喰らい、記憶を喰らい、現実を侵す化け物。
最初に言われた言葉を思い出す。
『君の夢、ひとつちょうだい。代わりに、他の誰かのをあげる。』
たった一度、軽くうなずいた。
その罠の代償は……母の命だった。
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最初に夢って出てきたときは将来の夢と思っていた