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妖怪・風習・伝奇

葉月さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

ユメカリ
短編 2025/06/11 14:44 2,803view
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きっかけは、昨晩の夢だった。
夢の中で俺は、夜中の廃駅にいた。

ホームに立っていた俺の前に、黒く濡れた毛並みの“何か”が現れた。
犬のような、猫のような、けれどどこか人間の目に近い“あの目”で、じっと俺を見上げている。

「僕はユメカリ。君の夢、ひとつちょうだい。代わりに、他の誰かのをあげる。」

そう囁く声が、頭の中に直接響いた。

夢なんて、どうでもいい。意味なんかない。
そう思っていた俺は、あのとき、軽くうなずいてしまった。

そして朝、俺の記憶が欠けていた。

昨日食べた夕飯も、母親と交わした会話も、ぽっかりと抜け落ちていた。

代わりに俺は、知らない街で、自転車に乗る夢を見ていた。
地面の感触も、風の冷たさも、あまりにリアルで。

それ以来、俺は夜ごと、誰かの夢を見た。
知らない家族。知らない戦争。知らない別れ。

夢はだんだんと鮮明になっていった。
まるで、その人間の“人生”を、なぞるように。

「春人、最近ちょっと変よ」

母がそう言ったのは、三日目の朝だった。

その頃から、俺は“自分”が曖昧になっていた。

好きだったゲームも、味の好みも、少しずつズレていく。
“自分じゃない誰かの価値観”が、日常ににじみ出してきた。

冷蔵庫にあったはずの牛乳が、別の場所に移されていた。
母の口癖が、知らない言葉に変わっていた気がした。
母の作る味噌汁が、知らない女の味になっていた。

ある夜、俺は夢の中で、男に殴られた。
頬を殴られた感覚と、折れた歯の痛みを、現実の朝まで引きずっていた。

鏡を見ると、頬にうっすらと青アザができていた。

俺の夢じゃない。
でも、その傷は俺の体についていた。

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コメント(1)
  • 最初に夢って出てきたときは将来の夢と思っていた

    2025/06/12/12:20

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