ドレミファソラシ

最初に聞こえたのは、夜中の2時だった。

うちの部屋って、けっこう静かなんだよね。
古いけど壁が分厚くて、隣の生活音もあんまり聞こえない。

なのにその日だけ、どこからか「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ……」って音が聞こえてきた。

機械音みたいだった。
電子ピアノとか、オルゴールとか、ああいう感じ。
でもちょっと音がズレてて……ピッチが微妙に下がってるっていうか、ねじれてる感じがした。

最初は上の階の人が夜に弾いてるのかと思ったけど、うち、上の階、空き部屋なんだよね。契約の時に不動産屋が言ってた。
それに、その音、毎晩2時きっかりに鳴るの。

しかも……気のせいじゃなければ、少しずつ近づいてきてるような気がした。

壁越しじゃなくて、もっと立体的に。
例えば最初は天井の上から聞こえてたのが、次の日は部屋の角、さらに次はベッドの近く、みたいに。

ある夜、私は気づいた。
「ドレミファソラシ」のあと、「ド」が鳴ってない。
あれ？って思ってたら――

玄関のチャイムが鳴った。

2時ちょうど。こんな時間に来るやつなんていない。
怖くて、玄関の方なんて見れなかった。

でも……聞こえたんだよ。
ドアのすぐ向こうで、誰かが口ずさんでる声。

「ド、レ、ミ……」

あの時、本当に心臓が止まるかと思った。
息を殺して、布団の中で耳を塞いで……朝までそのまま。

それから数日は何もなかった。
音もチャイムも、嘘みたいに消えて。
でも私は寝られなかった。ずっと耳を澄ましてた。

そして、昨日。

大家さんから電話があってね。

「上の階の部屋、誰も入ってないはずだったんだけど、警察が入ったら中に変な楽譜が大量に置いてあって、それに赤いマジックで“7人目”って書いてあったんだって」って。

私、なんか数えられてるのかな。
「ドレミファソラシ」って7音でしょ？
じゃあ「ド」って、もしかして……次は？