大学の夏休み、俺は久しぶりに地元に帰ってきた。
その日は、地元の神社で行われる夏祭りだった。
小さな神社だが、子供の頃は毎年楽しみにしていた行事で、射的や金魚すくい、それに夜店の匂いが懐かしい。
盆踊りの音が境内から聞こえるなか、俺は友達と連れ立っていたが、ふと、一人になってしまった。
人混みを避けて裏手に回ったあたりから、なんとなく様子がおかしくなったのを覚えている。
空気が急に湿って重たくなり、気づけば周りは黒々とした森のような場所になっていた。
夜の神社の裏山なんてこんなものだったか?と首をかしげながらも、戻ろうと歩き出す。
すると、木々の間からわずかに提灯の明かりが見えた。
「あ、あっちが神社か」と思い、そちらへ足を向けようとした時だった。
「おーい!」
後ろから声がした。
振り返ると、そこには姉がいた。――いや、姉の“ような”姿をした何かが。
懐かしい浴衣姿で、にこやかに立っていた。
不自然に暗い森の中、その姿だけが妙に浮かび上がっている。
「どこ行くの?神社、こっちだよ?」
そう言って、姉は自分の後ろ、暗く深く続く小道を指差した。
俺は笑って、「違うだろ?神社はあっちだよ、提灯が見える」と答えた。
すると姉の顔が、さっと青ざめた。
そして怒鳴るように叫んだ。
「何言ってんの!そっちは火の道だよ!!」
――その瞬間、風がざわっと吹いた。
「火の道」? そんな言葉、聞いたことがない。
だが本能的に、その言葉の意味を理解してしまった。
それは、“生きている者が踏み入れたら戻れない”、
異界への一本道だったのだ。
目の前の提灯の光は、ただの明かりじゃなかった。
あれは“向こう”のもの。
人魂のように、静かに揺れていた。
その後のことはよく覚えていない。
ただ、姉(だった何か)に手を引かれ、気づけば神社の境内の裏手、いつもの林の中に立っていた。























異世界、行ってみたいですね。この世のものじゃない祭りも見てみたいです。