Bの運転する車で、丘の麓に辿り着く。
本来なら立ち入り禁止の区域なので、目立たないように忍び込む必要がある。
その夜は月明かりで程よく明るく、懐中電灯を使わなくても、視界に不自由はなかった。
丘の入り口にある管理人の屋敷には灯りが灯っていた
だが、見張りの人間はいなかった。
俺たちは、丘を取り囲むように設置してある2m程のフェンスを、車に積んであった脚立を使って乗り越える。
そして、階段状になった小道を音を消して進む。
ふと、後ろを振り向くと、見慣れた町の明かりが見える。
これから踏み込もうとしている目前の深く暗い森林と、文明社会の明るさの境に、若干の陶酔感を覚えつつ、禁断の地に足を踏み入れようとする好奇心に高揚感を感じながら、俺は足を進める。
隣では、AとBが、手を繋ぎ身を寄せ合いながら歩いている。
だがその表情には余裕がある。
まるでお化け屋敷の肝試し。二人とも、今の状況を楽しんでいるのだろう。
それからしばらく小道を進み、
丘の山頂を覆う森の入り口についた。
ここまでの道は、整備も行き届いており歩きやすく、また、見通しも良く怖さを感じることはなかった。
正直、なんだこんなものか、という気分だった。
…だが、ここからは違った。
まず目が向いたのは、入り口と思しき門の前にある鳥居だった。
赤黒く艶があるその鳥居は、触れてみると、夏だというのに湿気を含んで、気持ち悪い感触であった。
鳥居があるということは、ここは何かの神事を行う場所なのだろうか。
俺は、以前、丘の入り口に坊さんや巫女さんが集まっているのを見たことがある。
では、この奥には、何か神様のようなものが祀ってあるのだろうか。
俺達は、鳥居をくぐった。
鳥居の奥にある門には、南京錠がかけられ、厳重に閉ざされている。
その南京錠の鍵穴は経のような文字が書いてある札で塞がれている。
門そのものにも、隙間を塞ぐかのように中央に札が貼られている。
俺は門の周囲を見渡す。
門と連なる形で、森を囲うようにフェンスが設置されているが、そのフェンスには森の木の蔦がびっしりと絡みつき、まるで壁のようになっている。
よく見ると、蔦の間から、お札(ふだ)が見えた。
蔦の影になり、よく見えてはいなかったのだが、その札は壁を覆うようにびっしりと貼られている。
そして、眼に入る範囲の全て札には例外なく『封』の文字が入っていた。
…祀ってるんじゃない。
ここには、何かを封じているんだ。
俺は、本能的にそう感じて一歩下がる。
そこで、鳥居の右端に、小さな石碑のようなものがあることに気付く。
その石碑には、何やら、文字が書いてある。
俺は、その文字を読もうと、石碑に顔を近づけた。
石碑には、
『馘括姫ヲ封ず』
『ただちに立ち去れ』
『封を侵す全てのものは呪い括られ吊り殺される』
『呪詛は人の言葉を持って拡散し多くの民を呪うであろう』
『入るなかれ。穢すなかれ。壊すなかれ。封を解くでなかれ』
と書いてあった。
俺の予想は確信に変わる。
俺はここで始めて、この場所に立ち入ったことに恐怖を感じる。
























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