そこに、「何か」がいました。
パッと見は影のようでした。人型の立体的な影。
それが、鳥居を通せんぼするみたいに大きく手を広げて、鳥居の柱を握っていたんです。
…そう、決して小さくない、鳥居の両方の柱を握っていたんです。
全員、凍りつきました。
だって、あそこを通らないと帰れないのに、そこを塞がれているんです。
思わず隣の子の手を握ると、向こうも手を握り返してきて、お互い汗びっしょりなのがわかりました。
誰も動けないでいましたが、突然怖がりの子が
「いやぁっ!!」
と叫んで、鳥居目掛けて走り出しました。
そして、鳥居の横をすり抜けるようにして走って行ってしまったんです。止める間もありませんでした。
通せんぼしていた影は、その子の方を見ながらぐぅるりと首を回すような動きをしていて、鳥居の外まで走っていくのを見ると。
ニタリ、と笑ったんです。
口だけは人間のようで、赤い口腔と妙に白い歯を剥き出しにして、本当に楽しそうに笑ってたんです。
そして、ゆっくりと柱から手を離すと、ゆらりとした動きでのっそりと後を追いかけて、視界から消えました。
妙に長い腕を引きずりながら動く姿は、今でも頭に焼き付いています。
私達は暫く動けませんでした。
身体中ガタガタと震えていて、錘がぶら下がっているみたいに重たくて、動きたくてもちっとも言う事を聞かなかったんです。
夕暮れの日が更に落ちて、自分達の影が見えなくなってきた頃。
「…帰ろう、怒られちゃう」
私達の後ろ、鳥居から突き当たりまで先頭を歩いていた男の子が言います。
その声を聞いて、私と隣の子はようやく動けるようになりました。
「あいつなら、多分大丈夫。入る時は鳥居をくぐったんだし、問題ないよ」
そう言って、私達は鳥居をくぐって、来た道を戻りました。
「大丈夫だよ、いまごろ私の家でのんびりしてるよ」
「そうだよね、きっと大丈夫だよね」
「怖かったなぁ…」
ポツポツと話をしながら家に帰ります。
きっと大丈夫、きっと無事。
そんな会話を何回もしながら。

























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