高校の夏休み。
久々に、祖母の家へ墓参りに行くことになった。小学生の頃は毎年行っていたが、高校に入ってからは部活や試験で疎遠になっていた。
祖母の家に着いたのは、夕方近くだった。蒸し暑い空気の中、母と俺は黙々と墓地へ向かった。
山沿いの古い墓地。石段を登るたびに、蝉の声が遠のいていく。
あの空気が、昔から苦手だった。
墓前に着き、線香をあげ、手を合わせる。
儀式のように、慣れた手つきで母が言う。
「おじいちゃん、おばあちゃん。今年も来ました」
俺もつられて手を合わせ、目を閉じた。
——その瞬間、空気が変わった気がした。
目を開けると、母がいなかった。
あたりを見回す。いつの間にか、周囲の墓石が全て同じ形になっていた。全て、見覚えのない無名の墓。名前の刻まれた墓が、ひとつもない。
「……夢か?」
そう思った。妙に意識が冴えている。明晰夢かもしれない。
でも、足元の土の感触、石に触れたときのひんやりとした感覚、風が髪を揺らすリアルさ——それが夢とは思えないほど、はっきりしていた。
気づくと、墓地の奥の小道に、何人かが並んで立っていた。
白装束のような服を着た人々が、等間隔で、無言でこちらを見ていた。
……いや、見ていたわけじゃない。目はすべて真っ黒で、感情も焦点もなかった。ただ、顔だけが、俺の方を向いていた。
一人が歩き出す。
そして、後ろの人も、次の人も。
ゆっくりと、まるで列の順番を守るように、同じ動きで、俺のいる場所へ近づいてくる。
「やばい……また、あの夢と同じだ……」
心臓がバクバクと鳴る。
後退りすると、背後の墓石に足をぶつけ、倒れ込んだ。
そのとき、足元の土から「ガサッ」と音がした。
振り返ると、地面から白い手が伸びてきていた。
細く、乾いた、年老いたような手。それが墓の隙間から、俺の足を掴もうとしている。
「やめろっ!!」
叫んで足を引き抜くと、周囲の視線が一斉にこちらに向いた。
……あの目だ。電車の中で、俺を睨んだあの目。黒く、底のない、怒りと絶望の入り混じった目。






















わたしの考えとちがった-