そんな風にしばらく私と成美の攻防が続いて、さすがに私も我慢の限界でした。
ある夜、例のごとく成美から関係修復を迫る電話が来た時、言ってやったんです。
お前とは完全に終わったんだよ。これ以上は警察呼ぶぞ、って。
単に医者の妻というステータスが欲しいだけのお前なんかと誰がよりを戻すかって、はっきり言ってやったんですよ。
まぁ自分でもどうかとは思いますが、仕方なかったんです。これくらい強く言わないと向こうも分かってくれそうにもなかったもんで。
そしたら彼女、図星だったようでしばらく黙りこくり、最後に何か小さな声でブツブツ呟いたかと思うと向こうから通話を切ってきました。
それからというもの成美から電話やメールが来たり、もちろん部屋に押しかけてくるような事もぱったりと無くなり、やっと成美から解放され悩みの種が消えた私は精力的に仕事に専念できるようになりました。
しかしこのまま平穏無事に過ごせると何の疑いも無く信じていた私はやはり甘かったようです。
追い詰められ、失う物の無くなった人間の怖さを身をもって知る事になりました。
年の瀬も迫った12月の半ば、その日はレポートの作成に追われて遅くに就寝したのですが途中で目を覚ましました。時計を見ると夜中3時過ぎで2時間も寝ていません。
何故目を覚ましたかというと変な異臭がしたからです。私はちょっとの異変でもすぐに目を覚ます質でして、これはただ事ではないと飛び起きそぐにこれはアルコールの臭いだと気付きました。そして臭いの元を探るため寝室を出ると床に液体が蒔かれていたのです。
衣擦れのような音が聞こえて暗いリビングを見ると中央に女性がこちらに背を向けて座っていました。
全身ぐっしょり濡れているようで幽霊かと思いましたが、背格好からすぐに成美だと分かりました。洟をすする音が聞こえたから多分泣いていたんでしょう。
あまりにも予想外の出来事に遭遇すると人間の脳はフリーズしてしまうんですね。私は数秒の間固まってました。
お前、ここで何して——。
ようやくそう言いかけた時、成美が何をしようとしているのかふいに理解した私は一目散に玄関へ走りドアを開けました。直後、爆発音と共に激しい火柱が立ち、辺りが一瞬昼間のように明るくなったのを覚えています。衝撃で転んだ私のシャツにも引火し、走りながら服を脱ぎ捨て上半身裸で外に避難したんです。
他の部屋の住民達もすぐに外に飛び出し、深夜にもかかわらず集まってきた野次馬達と共に窓から黒い煙を夜空に向かって吐き出す自分の部屋を、為す術無く他人事のように眺めているしかありませんでした。
既に誰かが通報したようですぐに消防車のサイレンが聞こえ消火活動が始まり、炎は周囲に延焼する前に消し止められて隣近所への人的被害も無く、私も腕と背中に軽いやけどを負っただけで済んだのが不幸中の幸いでした。逃げるのがあとほんの少し遅れていたらどうなっていたかわからないと救急隊の人が言ってましたが。
・・・もちろん成美は助かりませんでした。
成美には以前合鍵を渡していて別れた後はちゃんと返してもらったんですが、どうやら密かにスペアを作ってたらしくそれで部屋に忍び込んだみたいです。
今回の騒動で事後処理に追われたり警察からの事情聴取でそれはもう思い出したくない位大変でしたね。
結局現場の状況や検死結果から、痴情のもつれで自暴自棄になった女が部屋に火を点けた、ということで被疑者死亡で書類送検となりこの件はなんとか幕引きになりました。
とにかく当時は仕事どころじゃなかったですよ、ほんと。
しかしよくもまぁ、部屋に忍び込んで放火して心中しようなんて思いつきますよねあの女は。思いついても実行なんてしませんよ普通は。
逆恨みもいいとこですよね。
あんな恐ろしい女と付き合っていたと考えると今も肝が冷える思いです。
以上が、私と成美との間に起きた顛末です。
さて、ここでちょっと考えて欲しいのですが、この事件で私が一番ショックを受けたのは何だと思いますか?
ええ、成美がああいう形で私を巻き添えにしようとしたのも勿論そうですけど、そこじゃ無いんですよね。
一番精神的に辛かったのは、焼けた私の部屋から「4体」の焼死体が出てきたって事なんです。 私も最初は耳を疑いましたが…。























こわ
怖すぎる
どこのアルカ◯ダやねん
最後で鬼◯の刃の産屋敷ボンバー思い出した