古市が話題を変えたことで、その話はそれきり断ち消えた。
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帰りの地下鉄の長椅子に座りボンヤリ正面の暗い車窓を眺め、前嶋は記憶の糸を手繰り寄せながら考えていた。
━市之助くんは確かにいた、、、
出会いは確か小学5年生の夏休みの始まった頃だったと思う。
当時俺はいじめに合っていてクラスには居場所がなく、いつも孤独だった。
だから普通の小学生なら夏休みとなると友達と遊びに出かけたりするのだが、俺はほとんど家を出ることがなく暇さえあれば自室の窓から空ばかり眺めていた。
昼過ぎに母から買い物を頼まれエレベーターで一階に降り、外に出た時だ。
その日は朝から雨で団地入口前で傘をさしていると、数メートル前の雨に煙るアスファルトにボンヤリとした人影があるのに気付く。
━誰だろう?
訝しげに思いながら、俺は目を凝らした。
白いトレーナーに黒い半ズボン姿をした、ぽっちゃり体型で色白の男の子。
傘もささずにただじっとこっちを見ている。
年齢は俺と同じくらいだろうか?
「こんな雨の中大丈夫?
きみ、名前は?」
そう言って俺は彼に駆け寄ると、傘をかざしてやる。
その時ふと俺は男の子がほとんど濡れていないことに違和感を感じた。
すると男の子はボソリと
「市之助」と呟く。
「家は?」
俺の問いに彼は無言で背後を指差した。
それで俺は市之助くんと二人相合傘で、彼の指す方へと歩く。
C棟だったかD棟だったか、とにかく西側端の方の最後列の棟だったと思う。
そこは他の棟と同じような灰色の建物だったのだが、奇妙にセピアカラーにくすんで古ぼけた感じだったのを憶えている。
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こんなに感動したものは初めてです。
名作じゃんけ。
コメントありがとうございます
─ねこじろう