それからも市之助くんとは何度となく団地敷地内で会ったのだが、彼はいつも何をするわけでもなくただボンヤリして突っ立っていた。
やがて自然と一緒に近くの公園で遊んだりするようになる。
ただ一緒に遊んだというより、
俺が遊具で遊んでいる間はいつも彼はベンチに座り空を見上げていて、その横顔はどことなく悲しげな感じだった。
ある日市之助くんは俺に、ある場所を教えてくれる。
そこは団地裏手に広がる林の中にある、とある小さな廃神社。
敷地を囲う金網のフェンスには一部穴が空いていて、市之助くんはそこをくぐり抜け林の中にさっさと分け入って行く。
俺はその背中に従う。
曲がりくねった獣道を黙々と進む市之助くんの後ろについて行くと、やがて視界が開け枯葉に覆われた平地が忽然と現れる。
そこは廃神社の敷地で手前には小さな朽ちた鳥居があった。
その片隅にある崩れ掛けた小さな本殿が、その日から俺と市之助くんだけの秘密基地になる。
市之助くんは俺の部屋に来たこともあったが、やはり彼はただ床に体育座りしてじっと窓の方を見ているだけで、ゲームとかを誘ってもやったことがないからと断られた。
家族のこととかを尋ねても、ただ薄笑いを浮かべるだけだった。
※※※※※※※※※※
そしてあれは夏休み最後の日のことだったと思う。
その日は市之助くんと例の廃神社で遊んでいた。
俺が虫捕りに夢中になっている間も、市之助くんは相変わらず本殿入口の階段に腰掛け、ただじっと空を眺めていた。
少し疲れた俺は市之助くんの隣に並び座る。
しばらく彼と一緒に空に浮かぶ入道雲を眺めていると、突然市之助くんがすっくと立ち上がり本殿の扉前に進むと取っ手に手を掛け開こうとする。
「ダメだよ勝手に開けたら」
まだ純粋だった俺は、彼の背中に向かって言った。
市之助くんは手を止め肩越しに振り向き、いかにも悲しげな顔でじっとこちらを見るとやがて諦めたのか、また隣に腰掛ける。
それから雲間から射し込む陽光もだいぶ弱々しくなってきた時分のことだ。
再び彼は立ち上がると階段を離れ、さっさと林に向かって歩きだした。
「どうしたの、もう帰るの?」と背中に向かって声をかけると、彼は肩越しに振り返り手招きする。
訳も分からず俺は従った。
市之助くんが林を抜け団地敷地内に入り向かった先は、以前雨の日に彼を見送った団地の一棟だった。






















こんなに感動したものは初めてです。
名作じゃんけ。
コメントありがとうございます
─ねこじろう