私は、そばで寝ている母に声をかけようとしましたが、声を発することも身体を動かすことも出来ませんでした。
かろうじて、目だけは動かせましたから、暗闇のなかドアの前に視線を移し、思わず目を見張りました。
そこには、着物を着た若くてきれいな女の人と、その横に お祭りの行列で見かけるような、黒いたてがみに、焦げ茶色の美しい毛並みをした大きな馬が、こちらを向いて立っているのです。
子ども心にも、突然の訪問者が、この世のものではないとすぐにわかりましたが、なぜか全く怖くはなく、ただ理由もなく涙があふれ続けるのでした。
女の人は、自分が着ていた着物を脱ぎ、隣に寄り添う馬の背に掛けてあった綺麗な刺繍が施された敷物を手に取ると、今しがた脱いだ着物と重ね合わせ、ベットに寝ている私の布団の上に掛けました。
驚きのあまり、身動き一つ出来ないでいる私の顔を覗き込むと、優しい笑みを浮かべ、
「アナタハ イイコ イイコ アナタガ ダイスキ ダカラ アゲル」
と告げると、ふうらりと、傍らにいた駿馬に腰掛けると、しばし宙を舞っていましたが、数分の後、ダイヤモンドダストのようなキラキラとした光の粒となり、遥か彼方、未知の世界へと去って行きました。
「峠は超えたようですね。」
お医者様の安堵する声が聞こえてきました。
閉じられた瞼に、うっすらと朝の光が差し込んでくるのが分かりました。
ゆっくりと目を開けると、私を見つめる母がいました。
「よく頑張ったわね。もう、大丈夫よ。」
「お母さん。私、昨夜ね。」
身を起こしてみると、目の前に、小さな布切れを接ぎ合わせて作った子ども用のお布団がかけてありました。
母の話によると、深夜、Y子ちゃんとY子ちゃんのお母さんが、布を接ぎ合わせて作ったという 子ども用のお布団を持って病室を訪ねてきたというのです。
Y子ちゃんのお母さんが、母に、何をどこまで話したかは定かではありませんが、母は、全てを察してくれました。
Y子ちゃんのお母さんは、開口一番、「この子が、お嬢さんに、大変申し訳無いことをいたしました。」と土下座したというのです。
Y子ちゃんは、そんなお母さんの横で、同じように床に頭を擦り付け、「ごめんなさい。ごめんなさい。」と、ひたすら泣き続けていたそうです。
母は、目に涙を浮かべながら、
「おそらく、Y子ちゃんのお姉様方や、お祖母様、ご親族の方々も、お母様とご一緒に、ひと針ひと針丁寧に布を縫い合わせ、接ぎ合わせてお作りになられたのでしょうね。」
あんなに忌み嫌っていたのに、Y子ちゃんのお母さんが持ってきてくれた小さな掛け布団を、愛おしむかのように手で擦りながら教えてくれました。
丁寧にお礼を言い、むしろ、詫びをしなければならないのは、私の娘であると、頭をあげるよう何度もお願いしたのですが、熱が下がり、お元気な姿を拝見するまで、頭をあげるわけにはいきません。絶対に、ここを動きません。とまでおっしゃったのだそうです。
とうとう根負けした母が、その掛け布団を私に掛けた直後から、嘘のように熱が下がり、一時間後には点滴が外れ、その日のうちに、退院許可が下りるまで快復したのでした。
病室の片隅で、土下座をしていたY子ちゃんとお母さんは、快復の兆しが顕著になったあたりから、気がつくと、いつの間にか病室からいなくなっていたのだそうです。
退院後、私を待っていたのは、信じられない、いえ、信じたくない出来事でした。
学校の同級生や担任の先生に、Y子ちゃんの消息を尋ねても、皆、何も言わず、困ったような顔をして俯いてしまうのです。
それでも、私がしつこく尋ねると、皆が、まるで判を押したように同じことしか話してくれないのです。
Y子ちゃんご一家は、あの後、すぐに、先祖代々住んでいた別の土地へ引っ越したと。
「別の土地って。どこ?」
「元いた土地。もともと居た場所に行ったのよ。」

























怖い
すみません。作者から一言お詫びを申し上げます。一度、アップしましたが、読み直してみると誤字脱字、表現の誤りが多く、一部もしくは数か所訂正させていただきました。再アップいたします。
ご笑覧いただけましたら幸に存じます。
貴重な体験でしたね。
怖いというよりちょっと感動した。
すみません
一時間後の後が語になってましたよ
あと面白かったです
*作者より
長編、しかもかなりひと世代前のお話。月の後半に投稿したにも関わらず、こんなに多くの方に読んでいただけるなんて恐悦至極にございます。
何度か手直しさせていただきましたこと、ところどころわかりにくかった箇所や読みにくい箇所など申し訳ございませんでした。今後、精進してまいりますので、お許しいただきたく存じます。
先月後半は、皆様のコメントに支えられ、励まされ、また筆を執ってみようかなと思いも新たにすることが出来ました。
心より感謝申し上げます。
お読みいただいた皆様ありがとうございました。
あまり閲覧されないようでしたら、筆を折る覚悟でいました。
でも、心機一転。新たな気持で新たなペンネームでこれからも書き続けたいと思います。
遅筆ではございますが、投稿した暁には、ご笑覧いただけましたら幸いに存じます。
<一時間後の後が語になってましたよ
大変申し訳ございませんでした。ご指摘ありがとうございます。
早急に訂正いたします。はて?どのあたりだったでしょうか・・・。^^; 今から、探します。
誤字脱字、入力ミスに変換ミスは、何年経っても治りませんね。これは、年齢と言うよりは、性格的なものかもしれません。これからは、極力そのようなことのないように慎重に投稿いたします。
また、間違いがありましたら、いつでもご指摘くださいませ。
<あと面白かったです
嬉しいお言葉感謝いたします。
これからも、精進してまいりますので、よろしくお願いいたします。
ご指摘いただきました箇所、1時間語→1時間後に 訂正いたしました。
ありがとうございました。