僕は混乱した。確かに彼は廣中だ。同じ顔、同じ体格、同じスーツ。何かおかしい。
「でも…」
「失礼します」
彼はマンションの中に入っていった。
次の日、好奇心に負けた僕は、マンションの管理人に聞いてみた。
「301の廣中さん?ああ、先週引っ越しましたけど。何かありました?」
「えっ…でも、昨日も見かけましたよ?」
管理人はまさに「何言ってんだこの人」という顔をした。
「もう鍵も返却済みだし、部屋は空室ですよ?」
その夜、僕は再び彼を待った。そして予想通り、いつもの時間に彼は現れた。ゴミ袋を持って。
僕は彼を追いかけた。ゴミ置き場まで。
彼がネットをめくろうとしたとき、僕は声をかけた。
「ちょっと、あの!…あなた、誰ですか?」
彼はゆっくりと振り向いた。その顔は、確かに廣中だった。だが、表情がどこか違う。
「廣中です」と彼は言った。声も同じ。
「でも、管理人さんは引っ越したって…」
「はい。引っ越しましたよ。でも、ゴミ出しを忘れていたので」
彼の説明は筋が通っているようで、どこか不自然で、意味不明だと思った。だが、それ以上追求する勇気がなかった。
彼は会釈して、ゴミを捨て、僕の横を通り過ぎていった。すれ違いざま、彼の足がピクピク揺れているのに気づいた。
帰り際、彼が振り返り、小さな声でつぶやいた。
「大丈夫ですよ。もうすぐ、ですから」
―― それから数日後、301号室に若い男性が引っ越してきた。
偶然、エレベーターで一緒になった時、彼は
「この部屋、前の住人は何か変わった人でしたか?」と尋ねてきた。
「いいえ、ごく普通の人でしたよ」
「そうですか。変な夢を見たもので」
「へぇ…どんな夢です?」
























いやクビになったのに、いつまでスーツ着てるんだよ