その日は自分、嫁、娘の三人家族でリサイクルショップへ出掛けていた。何か欲しいものがあったわけでもなく、安いものがたくさん陳列されている場所が好きなのだ。娘も好奇心旺盛な年頃の為、何か気に入ったおもちゃでもあったらついでに買ってやろうかなんて思っていた。
そんなこんなで買ったのが、この絵画だ。娘がこれを欲しいと言い出した時は驚いた。だが、子供のこういった感性というのは伸ばしたほうがいい。嫁もなんだか見惚れているようだし、購入を決めた。
その絵は女の子の肖像画だが、幾分可愛く、そして力強く描かれており、背景もファンシーだった。女の子の前には堂々とした花瓶があり、女の子がそれを笑顔で見つめている。この絵画はリビングに飾られ、周囲の空気とはまるであっていなかったが、雰囲気のアクセントとして作用していた。
だが、次第にそれは不気味に思えてきた。普通、静かなリビングに絵画は合うものだが、その絵に限ってどこか本能が拒絶するような不気味さがあった。私たちがご飯を食べる時、ちょうど私はその絵画を見つめるような席に座る。そうすると、今にもそれが動き出しそうな狂気を感じてしまうのだ。
ある日のことだ。その日はリモートワークで、自室にこもって資料を作成していた。そんな時、リビングから娘の泣き声が聞こえてきた。どうせ、テーブルにでもつまずいて転んだんだろう。
在宅とはいえ仕事中なので、嫁が娘を泣き止ませてくれることを祈った。実際嫁はいつも娘をあやして泣き止ませてくれる。しかし、今回は違った。
ガラッと自室のドアが開いた。そこには顔を青ざめさせ、不安に満ちた顔の嫁が立っている。何故そんな顔をしているか、私はすぐに理解した。
嫁は娘を抱き抱えていた。娘はキョトンとした顔で、自室のそこら中を見回している。しかし私たちはキョトンとできない。リビングの泣き声は、未だ家中に響いている。
私はリビングを見に行った。そこには誰もいなかった。だが、声の元は間違いなくリビングだ。
その泣き声は食卓の方から鳴っていた。恐る恐る近づいてみたが、何も無かった。
その時だ。私は目が合ってしまった。血の涙を流しながら、ジッとこちらを力強く見つめる少女の絵と。
私はそれを見た瞬間、スっと気を失ってしまった。あとから嫁に聞いた話だと、絵画の方を見て涙を流して、祈るように手を合わせていたらしい。何度声をかけても反応しなかったそうだ。ひとつ言えるのは、声の元はあの絵画だったということだろう。
こんなこともあり、私たちはその週末に業者にその絵画を燃やしてもらおうとしていた。それまで、その絵画は丁重に物置にて保管された。
ある日の夜、私は夢を見た。絵画の女の子を牢屋に閉じこめる夢だ。最初は躊躇っていたが、次第にその子に対して暴力的になっていった。その女の子はまた、血の涙を流していた。
だが、瞬きをした瞬間、フッと力関係は逆転した。私が檻の中へ放り込まれ、女の子に殴られ、蹴られするようになってしまったのである。女の子は笑っていた。大声でだ。血の涙は跡さえなく、不気味に笑っていた。
いずれ目が覚めていった。夢と現実の境目になっても聞こえ続ける笑い声に、私はようやく目を覚ました。
寝室の壁にかけられていたのは他でもなかった。物置に置いたはずの、あの女の子の絵画だ。
女の子はこちらを満面の笑みでじっと見つめていた。花瓶の花は枯れて、花瓶にもヒビが入っていた。
私は高くなる笑い声の中、また眠りに落ちてしまった。

























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