「平原さん、ありましたよギター!」
「どれ、見せてごらん・・・ヤマハのN-1000だね。マリーのギターに間違いないよ」
しばらくギターを見ていた平原さんが口を開いた。
「このギター、アタシにくれないかね? マリーの形見だ」
一瞬それもいいかな、と思ったが、やっぱりあげられない。
「マリーさんはまだギターを弾きたがってると思うんですよ。だからボク、このギターを修理して屋根裏部屋に戻しておこうと思います」
それを聞いた平原さんは「そうかい、マリーがまだ弾きたがってるんじゃ仕方ないね」そう言ってボクにギターを返してくれた。
「また来るよ」
そう言って去っていく平原リリの後姿を見送ったあと、ボクはギターの修理をしてくれる楽器店を探した。
・・・それから3か月。やっとギターが直って戻って来た。
自分は楽器の事には疎いので、ギターなんてものはせいぜい数万円で買えるものだと思っていたのだが、なんとこのギターは某有名フォークシンガーのデビュー時に愛用されたものと同じ初期型モデルだそうで、ショップ店員さんが・・・
「こ、これは・・・ボディ形状はドレッドノートタイプ、トップ材はエゾ松単板、サイド・バックはハカランダでスリーピース・・・ネックはアフリカンマホガニー、651mmのロングスケール・・・ノンスキャロップドXブレーシング・・・べっこう柄ピックガード・・・
お、お客さんっ! 20万円出しますから、これ売ってくれませんか!?」
・・・と、目の色を変えてそんなことを言ってきた。魔法の呪文かと思った。
もちろん、やんわりとお断りした。
(・・・もしかして平原さん、価値わかってて「くれ」って言ったのかなw」
ようやくボクは、それを屋根裏部屋に持ち込んで、スタンドに立てかけることができた。
「マリーさん、直りましたよ」
そう言って屋根裏部屋を後にした。案外これで成仏してくれるかもな。
なんて思っていたのだが・・・。
その日の深夜、ふと目を覚ますと、マリーさんが枕元に立っていた。
ボクは半分寝ぼけながら「あ、マリーさん・・・ギター良かったですね」と声をかけた。
マリーさんは少し照れたような顔で「あなた、いい人なのね」と言ってボクの顔を覗き込んできた。ちょっと恥ずかしい。
「また今度、ラーラが来たらお礼を言っておいてくださる?」
「ラーラって平原さんの事?」
彼女は小さくコクっとうなずいた。『ヒラハラ』だからラーラか・・・。
よく見ると彼女の傍らにはあのギターがあった。
彼女は、「お礼に歌いますね。・・・私の好きだった曲『ホームにて』」
そう言ってゆっくりギターを弾き始めた。
ボクはなんだか申し訳なくて、布団から出てベッドの上で正座してそれを聴いた。
kanaです。
この作品は2022年の春頃に書いたマリーさんシリーズの4編をまとめて、加筆修正してまとめた完全版として書き上げたものです。長編18ページとなりましたが、面白く読めると思いますので、ぜひお読みください。後半に出てくるニンニンこと、除霊師・忍足 忍(オシダリ シノブ)は、朽屋瑠子シリーズの「赤騎士事件」にも朽屋の同僚として登場する除霊師です。スピンオフ参加です。お楽しみください。
読んでいる途中で感情移入をしたようで、涙が止まりませんでした。
良い話や
すごい感動しました👏
最高です!
※勲章授与のシーンで脱字がありましたので修正しました。
kanaです。
劇中歌として『ホームにて』と『時はながれて』をマリーさんが歌っていますので、
よろしければそれを聞きながら読んでいただくと、臨場感も湧くと思います。
ちなみに、検索をかけると『時はながれて』と同名のタイトルの楽曲を複数の方が歌われているようで、もしかしたら違う曲を聴く可能性もありますが(笑)、マリーさんが歌っているのはあくまでも「某有名女性フォークシンガー」が歌われている曲です。失恋の歌が多い方ですよね。
では、お楽しみください。
↑↑感動したというコメントをいただいて大変ありがたいです。あと、怖くないのにこわいねボタン押してくださる方、ありがとうございます。
みなさんはどのシーンでほろりと来ましたか?
怖いの苦手な方も、ぜひお楽しみください。
さすがです。
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