【帰還】-事件記者 朽屋 瑠子-
投稿者:kana (216)
この2日後、C国は突然福島や東京など日本の10都道府県からの水産物輸入禁止を発表した。
理由は福島原発事故により発生したトリチウムの処理水を日本が海洋放出することを決定したことへの対応であると。日本政府はこの件に関してただちに反発。IAEA(国際原子力機関)も了承済みであり、国の安全基準の40分の1にまで薄められた処理水でもあり、C国の処置は科学的論拠に乏しいというものだった。しかし、C国内では放射能に対するアレルギーのようにデマがどんどん広がっていく事態となっていた。
BRICS首脳会議を終えたC国国家主席は、その帰路の途中、Sウ自治区を急遽訪問している。それが26日である。ここにはC国の重要な核実験施設がある。
さらに2週間後の9月9日には、インドのニューデリーにてG20首脳会議が開催されることになっていたのだが、なんとC国はこの会議自体を欠席すると発表した。
国際舞台を次々と欠席する不可解な行動に対し、C国からは明確な説明は一切出ることはなかった。
そんな折、T湾では不気味な噂が流れていた。
「T湾海峡で原爆みたいな大爆発があった」
「C国の原子力潜水艦が爆発したようだ」
「アメリカの潜水艦用に張った罠に自分たちがはまったらしい」等々。
この話には確たるソースがなく、信ぴょう性は高くないとして大きく取り上げられることはなかったが、この話に緊張している組織もあった。CIA(アメリカ中央情報局)と米海軍だ。
噂の海域近くでは、前年に米海軍の原子力潜水艦「コネチカット」が謎の未確認物体と衝突し、乗組員15名が軽傷を追っている。コネチカットは損傷軽微ということでそのままグアムへ帰投し、世間的には「未知の海山に衝突した」と公表していた。
しかし、CIAと米大統領には別の報告が上がっていた。
「リヴァイアサンが、南シ海に出没した」と。
米海軍がリヴァイアサンと称する謎のUMAと初めて遭遇したのは、2005年に遡る。
同年1月8日、グアム島南方を高速で潜航航行中の米原潜「サンフランシスコ」が異様に巨大な未確認物体からの攻撃を受け、大破。魚雷で応戦しつつ、なんとか追い払い帰投したものの、乗員137名中1名が死亡、98名が負傷(内23名が重症)を追う大惨事となった。
この件に関しても米海軍は未知の海山への衝突と発表し、同艦の艦長を解任、懲戒処分とした。表向きは・・・。
彼は今、重要な情報を持ったままCIAへ転籍となっている。
この時「サンフランシスコ」が対峙した巨大UMAを、米海軍ではコードネーム「リヴァイアサン」と呼称し、極秘捜索を続けていた。そしてどうやら、今回は中国海軍にもその犠牲者が出たようだというのがアメリカ側の憶測だった。
C国国家主席が重要な会議を欠席したのは、原子力潜水艦沈没という緊急事態に対処するためだったと見ている。同時に、突如として日本の原発処理水へのクレームを出したのも、実は放射能が検出された場合の予防線を張っていたと思われる。稚拙な行動に見られたがC国では以前から緊急時にそうした行動をとることが一般的になっている。要は隠ぺい体質だ。
だが、米海軍としてはそれを笑って見ていることもできない。
「自由航行作戦」「T湾防衛」と称して、表向きは軍事訓練などとしながらリヴァイアサンの居所をつかもうとしていた。それはC国海軍も同じで、軍部には体のいい訓練としながら、一部の潜水艦隊と哨戒部隊は、秘密裏にリヴァイアサン捜索を行っていた。
図らずも、南シ海で対峙する大国同士が、リヴァイアサンに関しては協力関係を取るような形になっていた。両国にとってリヴァイアサンは不確定要素以外のなにものでもなかったし、とくにC国海軍にとってはこれから外洋に侵出しようと目論んでいた矢先に原潜を失い、ひどい痛手となっていた。できれば抹殺したい存在。そう思っていた。だから大規模に捜索し、むやみやたらと爆雷を投下し、魚雷を撃ったりしていたC国だったが、手ごたえは得られていなかった。
それに対し、アメリカ側には大きなアドバンテージがあった。2005年の「サンフランシスコ」による戦闘データと、2018年にテキサス州に現れた怪物「ベヒーモス」、そして2021年にはサウスカロライナ沖上空に現れた「オファニム」を撃墜し、資料を確保していた。そして、その作戦を実行した日本人「朽屋 瑠子」という人材も手中にある。
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2023年10月。
朽屋のいる「月刊モー」編集部に、一人の米兵が訪ねてきた。
「クッチャルコ サンハー イマスカ?」たどたどしい日本語で叫ぶ兵士。
「ハイ! 朽屋ならここでーす」コラム執筆中の手を止める朽屋。
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