血雪
投稿者:きのこ (21)
そのとき親父が女の足元をみると、雪のうえにヌラヌラしたどす黒い液体がひろがっているのが見えた。
驚いた親父が女の前に屈みこむと、突然女は苦しそうな呻き声とともに顔をあげた。
目をカッと見ひらいた女の顔は、口のまわりや首のまわりが血まみれで、
右手に女物の剃刀がにぎられていたそうだ。
女は苦しそうな呻き声をあげながら、
その剃刀を血まみれの首にあてて、そしてそれを一気にグイッと引いた。
湯気をたててどす黒い液体が噴きだし、女の胸元や足元の雪を染めていく。
親父は息が止まりそうになりながらも、女から剃刀を奪い取り、それを川に投げ込んで、
「馬鹿なことをするな」と怒鳴りつけて、
急いで家まで救急車を呼びにもどってきた、という訳だ。
だが、親父と二人で、闇の中を雪に足をとられながら橋にきてみると、
街灯のうす暗い光のなかに、女の姿はなかった。
親父は「おーい、どこにいるんだ」と女を呼んだが返事はなく、
おれもあたりの闇を見まわしたが、人の気配はない。
そして不思議なことに、女がうずくまっていたと言うあたりの雪には、親父の足跡しかなかった。
「川だ」
おれは女が川に飛び込んだんじゃないかと思い、雪に埋もれた土手の斜面をおりて探そうとした。
だが、土手下は足元も見えないほどの暗闇につつまれていて、危険で降りられなかった。
そうこうしているうちに、救急車が雪のなかをもがくように到着し、
また、駐在所の警官も、原付バイクで転倒しそうになりながらやって来た。
親父は警官に経緯を説明し、空もようやくしらみはじめたので、
救急車の隊員も一緒に、周囲をさがしてみた。
だが、周囲にも膝までの深さしかない川の橋の下にも、女の姿はなかった。
女の足跡もなく、それどころか橋の上の雪には、わずかの血痕さえもなかった。
夜が明けてからも、止む気配もない雪のなかを1時間ほどさがしてみたが、
女がいた形跡はなに一つ見つけられなかった。
らちがあかないので、救急車は来た道を戻り、親父は警官といっしょに駐在所へ行くことにした。
書類をまとめるために、事情をあらためて聞かせてほしいとの事だった。
おれは何ともいいがたい気分で、独り家へ戻った。
家に帰ると、母ちゃんが台所で朝飯のし支度をしていた。
体の芯まで冷えたおれは、すぐ炬燵にもぐりこみ、
そのままの姿勢で先ほどまでの経過を母ちゃんに話した。
投稿者のきのこです
冬休みの間投稿出来なかったので
今日はたくさん投稿して取り戻します!!