後悔の夜
投稿者:きりはら (1)
私は子供の頃から怖い話に夢中で、父ならきっとたくさん知っているだろうと思い、話してくれとせがんでいた。父は渋っていたが、結局、車で父の故郷へ向かう途中にこの話をしてくれた。今から20年ほど前に聞いたこの話は、身近な人から聞いた中で、一番ドラマチックで恐ろしいものだと今でも思っている。
父の故郷は、海がある観光都市であり、有名な心霊スポットを有する場所でもあった。そして、父の若い頃はまさにヤンキー文化が最盛期の時代であり、父の知り合いはかなりをヤンチャをしていて、その仲間に起きた出来事だという。
いつもつるんでいる4人組のA、B、C、Dは、その日もDの家に集まってタバコをふかして暇を持て余していた。その時、Aが「肝試しに行こう!」と突然言い出した。話を聞くと、ある曰く付きの一軒家で肝試しが流行っており、その家に行こうということだった。霊感などまったくない彼らだったが、恐怖体験をしてみたいという気持ちや、不気味な家に乗り込むことに面白さを感じていた。心霊スポットには今まで何度も行ったことがあったので、Aの弟であるBはノリノリで、Cも「2人が言うなら」と賛成した。しかし、Dだけは気乗りせず、「家で待ってるから」と言って、3人を送り出すことになった。
Aの所有する2ドアの赤い車に乗り込み、心霊スポットへ向かう。助手席に座ったCは、改めてAにその家の詳細を尋ねたが、Aも詳しくは知らないという。そこは一軒家で、過去に一家心中があったとか、殺人事件が起きたとか、とにかく人が亡くなっているという曰くがあるそうだ。その家の奥にある仏間が怖い場所だと聞いていたため、彼らの目的は仏間を訪れることだった。運転席と助手席の間から顔を覗かせたBは「まさか血の跡が残ってたりして」と軽口を叩いている。山道を走り、たどり着いた家は何の変哲もない古ぼけた一軒家だった。
「じゃあ、仏壇にタバコを置いてくるべ」
車を降りながらAがいう。彼らは肝試しに行くときに簡単なルールを設けていて、Aの吸っているタバコの箱を置いてくる、というものだった。
「なかなか雰囲気あるなあ」
「なんだB、ビビってんのか?」
「うるせえな」
冗談を言い合いながら、3人は壊れた扉から室内に侵入した。部屋の中は風化が進んでいるだけでなく、訪れた者たちのせいで荒れ果てていた。ボロボロの壁にはスプレーで書かれた誰かの名前や下品な落書きが、床にはビールの缶やタバコの吸い殻が散らばっている。ここでたむろしたり、肝試しをしたりする人が何人もいたことが伺えた。
「おい、兄貴。その噂の部屋はどこだよ?」
「俺だってわかんねえよ。でかい家じゃねえんだから、すぐ見つかるべ」
3人はそれぞれ、広くはない室内を手分けして探索し始めた。少し声を大きくすれば、お互いに届く程度の距離感だ。
「いやーボロボロだな。けど、聞いてたほどは怖くねえ」
「あ、ここじゃねえか?兄貴、C!ちょっと来いよ!」
Bの明るい声のする方へAとCが急いで向かうと、開かれた襖の向こうに仏壇が見えた。
「おお、これだこれだ」
「こんなとこにあったんだなあ」
どかどかと歩いて部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、霊感のない3人ですら感じ取れる異変が身体中を包み込む。狭い入り口に男3人が固まり、奥へ進もうとする者はいない。部屋は一般的な仏間であり、目に見える異常があるわけではない。それなのに、重く息苦しい感覚が彼らを襲い、額にはじっとりと嫌な汗が滲み始めた。それは、何か大きな存在のようであり、または、たくさんの何かのようである。それがこちらをじっと見つめているかのような感覚だった。
「お、おい。ここ、なんかおかしくねえか?」
「確かに……。空気が重い気がする……」
「兄貴、いいから早くタバコを置けよ!」
言い知れぬ雰囲気に、BとCはパニック寸前だった。Aは逃げ出したい気持ちもあったが、その反面、この状況に面白さを感じていた。ポケットからタバコを取り出して握りしめると、部屋の中心へと歩みを進める。その間も、BとCは仏間の入り口から体を半分以上外に出し、いつでも逃げられるよう準備を整えている。
「おい、ここに置くぞ!」
その場を盛り上げるために大声を出して、Aは線香立ての横にタバコを乱暴に置いた。その瞬間、Aの背中に鋭い悪寒が走る。雷に打たれたような衝撃に突き動かされ、Aは踵を返した。これはまずい。無意識のうちに叫び声が口を突いて出る。
「うお、うおおおおおお!」
「なんだよ!何が起きたんだよ!」
「え!?なんだよ!なに!?」
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