あったんです。
首吊り死体。
俺があいつに伝えた通りの、あいつが配信を見てる人らに伝えた通りの容姿の女性が、本当に山頂の広場にある木の横に伸びた枝に首を吊って死んでいたんです。首が不自然に伸びて、舌が口からだらんと垂れて。目が……飛び出そうなくらい見開いていて。画面に映った「それ」をみる限り、幽霊というより本物の死体に見えました。直接見たあいつや視聴者が驚愕していたのは言うまでもないんですが、誰よりも驚いていたのは俺でした。だって……
あそこで首吊って死んだ人なんか、居ないんです。
全部嘘なんです。あいつがあんまりにもしつこく頼んでくるから調べたものの、何にも見つからなくて。でも何か言わないとあいつがうるさいから、仕方なく近場のあんまり知名度がなさそうな山を探して話をでっちあげたんです。女性の見た目も全部作り話です。だから居るはずがないんです。存在しないんです、そんな死体。でも居たんです。百歩譲ってその日偶然自殺した人がいて、それを偶然見てしまったとして。それにしたって、その死体の見た目が自分がでっちあげた話に出てくる死体の見た目と全く同じなんて、ありえないじゃないですか。だから、信じられなくて……でも画面にはハッキリと映っていて。俺は固まってしまって画面から目が離せなくなりました。
直接見てしまったあいつはというと、最初はあまりの出来事に声も出せず固まっていたようでした。無理もありません、誰だってそうなると思います。でもその後あいつは配信者としてそう振る舞おうとしたのか「本物」を見てしまっておかしくなったのか分かりませんが……急に走り出して、その死体の目の前にカメラを向けて、目の見開いた顔を間近に映したかと思えば……
急に笑いだしたんです。
「え、マジ?え?居るんだけど。えっマジで居るんだけど!?へへっ……マジでヤバいって皆んな見てよマジでいるよ!?ほほ、ほ、ほんとにいるんだけど、は、ははっ……半端ないって見てよヤバいって……ぇへへへっえへへぇ」って。
笑いつつ泣いていた、叫んでもいたというか。何かに取り憑かれたような、とにかく滅茶苦茶な喋り方になっていました。その間ずっと、あの首吊り死体の顔を目の前に捉えながら。配信のコメント欄も大混乱でした。同じように興奮しておかしくなったのか変なコメントする者、真面目に心配する者、あまりにも突然すぎてドッキリやヤラセを疑う者、様々でした。俺も画面に釘付けになってましたがハッと我にかえり、とにかく逃げて警察に通報しろと、あいつにコメントか気づかなければ直接電話しようとしました。ただ同じタイミングであいつも正気に戻ったようで、まだ興奮おさまらず過呼吸気味でしたが「とりあえず山降りよう」と叫んでカメラを死体から離して急いで山を下りはじめたんです。
その時でした。
あいつも、他の視聴者も気づいていませんでしたが。
俺は見逃しませんでした。
ハッキリと見えました。
見てしまいました。
なかなかたのしめた。
作中の伏せられた地名に、地元の地名を当てはめて、勝手な想像しながら読んだ。配信動画の傍観者になった気分で。
よかった