後悔の夜
投稿者:きりはら (1)
Aの恐怖が伝播し、全員が叫びながら半狂乱で家を飛び出す。Aは恐怖に駆られてBとCを押し退けると、一目散に車へ走り込んだ。エンジンをかける手が震え、そこにCが乱暴に飛び乗ってくる。
「早く出せよ!早く!早くしろって!」
「うるせえよ!今やってっから待ってろや!」
怒鳴るCと応酬するA。叫び声の余韻を振り払うように、Aはアクセルを踏み込んだ。車は急発進し、荒々しい音を立てながらその場を後にした。
その頃、3人を送り出したDは、一人暮らしの部屋でぼんやりと雑誌を読んでいた。何度か4人で肝試しへ行ったり、女の子も連れて行ったりしたが、どうも楽しめなかった。だから今回はパスしたのだが、結局のところ、一人で過ごす時間も同じように退屈だった。いつ帰ってくるのだろうかと考えながら、適当に雑誌のページをめくっていると、不意に引き戸の窓が「ガラガラ」と音を立てて開いた。
「え?」
あり得ない音に驚いて顔を上げると、窓の外から男が入ってきた。窓枠を乗り越えてきた中年くらいに見えるその男は、生気のない目をしているが、同時に何か激しい怒りが伝わってくる。
「……だろ」
「え?え?」
「……ただろ」
理解できない状況にDは雑誌を読んでいる体勢で男を見る。男は窓際に立ったままDをじっと見て、何かを問いかけるように低く呟いた。
「今、来ただろ」
その瞬間、Dの脳裏に3人が向かったあの曰く付きの家のことが鮮明に浮かび上がった。
「今、来ただろ。今、来ただろ。今、来ただろ」
抑揚のない、だが怒りを含んだ声で、男は繰り返す。
「俺は行ってねえよ!」
Dはすがるような思いで否定した。実際に自分は行っていないし、嘘をついているわけでもない。それでも、この答えによって何が起きるのかは全くわからない。早く出ていってくれ、と心の中で祈る。
「また、来るわ」
男は低い声でそう言い残し、窓枠を乗り越えて外へ出ていった。だが、安堵よりも恐怖が先に立ち、男がいた窓から目を離すことができない。ただ呆然としていると、突然背後で玄関の扉がバンと大きな音を立てて開いた。その瞬間、Aの声が部屋の中に響き渡る。帰ってきて早々、慌ただしく騒ぎ立てるAに、Dは食ってかかった。
「おい、お前ら何したんだよ!今、変な男がうちに来たんだよ!しかも窓からだ!」
「D、お前、何言ってんだ?」
「俺の部屋、2階だぞ?ベランダもないのにどうやって入ってくるんだよ!」
Dは必死に訴える。
「しかもそいつ、『今、来ただろ』って言ってきたんだよ!お前らのことだろ!」
「わ、わかんねえよ!何もしてねえって!ただ、いつもみたいにAがタバコを置いてきただけ……」
「うるせえんだよD!今それどころじゃねえんだよ!」
Aがあまりにも狼狽えているので、Dは困惑し、同時にあることに気づく。CはDの様子を見て、力なく呟くように言った。
「俺たち、Bをあの家に置き去りにしちまったんだ……」
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