ポラロイドの呪縛
投稿者:ねこじろう (153)
俺は大学に入る直前までは隣県で母親と一緒に暮らしていた。
うちは母子家庭で、家はエレベーターもない古びた市営団地三階の角部屋だった。
そして俺がちょうど高3に上がった頃、うちの反対側奥の角部屋に男の子と年老いた母親が引っ越してきたんだ。
男の子は坊主頭で小柄のおとなしそうな感じだった。
ただ肌艶がなく額にはシワがあり無精髭を生やしていて、顔はどうみても40過ぎのおじさんだ。
ではなぜ男の子と言ったのかというと、彼のしぐさや言葉は幼かったし仕事もしてなかったみたいで、母親と暮らしていたからだ。
そして俺は彼のことを密かに「ロイドくん」と呼んでいた。
ポラロイドのロイドくんだ。
いつも首からでかいポラロイドカメラをぶら下げていて、暇さえあると写真を撮っていたからだ。
思い返すとロイドくんと俺との最初の出会いは、
ある朝学校に出掛けようと渡り廊下中央にある階段を降りようとしていた時だった。
あに(兄)さんあに(兄)さん
いきなり右側から甲高く幼い声がする。
驚いてそっちを見ると唐突にパッと辺りが明るくなり、軽く目眩がした。
意味が分からず呆然とし立ち尽くしていると、ランニングシャツに半ズボン姿のロイドくんが小走りで駆け寄ってきて「はい、これ」と満面の笑みで一枚の写真を手渡す。
そこには肩越しに振り向く制服姿の俺の間抜け面が写っていた。
それからというもの、何故かロイドくんは俺に懐くようになる。
外で俺の姿を見掛けると決まって「あにさんあにさん」と嬉しそうに駆け寄ってきては付きまとうんだ。
あと夕暮れ時の空とか道端に咲く花とか虫とか母親の顔とか、思い思いに撮ったものを、たまにうちの家の玄関下のポストに放り込んだりしていた。
多分俺に見せたかったのだろう。
それからこんなこともあった。
下校時に団地近くの歩道を歩いていると、
前からロイドくんが母親と手を繋いで歩いてくる。
それまでも二人が外を歩いているのは、何度となく見掛けていた。
母親は病気かと思うくらいガリガリに痩せた女性で、年齢もかなりいってそうな風体だった。
俺に気づいたロイドくんは相変わらず嬉しそうに微笑みながら「あっ、あにさん」と、カメラを構えシャッターを押す。
そしてカメラ下部から出てきた一枚の写真を取ると小走りで俺のところまで来てから、いつものように「はい」と手渡した。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。