覗かれる部屋
投稿者:きのこ (15)
普通に考えると、そんな姿では動くことはできないような気がする。ゴロゴロと音がするということは、人間が車に乗るように、何かに乗って来るのだろうか。
どちらにしろ、ヨシは怖がっている。このまま放っておくのは可哀想だと思った。
「分かった。ヨシの家に泊まりに行くよ」
「ありがとう。でも、実際に見たら結構怖いと思うけど、大丈夫?」
「うん。部屋の中を覗いて帰って行くだけなら、大丈夫だよ」
肩をポン、と叩くと、ヨシは安心したように目を細めて微笑んだ。
私は一度、自分の家へ帰ってから、ヨシの家へ行った。
ヨシの家は、2階がリビングで、1階が寝室になっている。それが分かった私は、安堵あんどの吐息といきをついた。
——だから、顔が窓の所に来るって言ったのか。
私は、2階にヨシの部屋があると思い込んでいたので、家と同じくらいの大きさの顔が来るのかと思っていたのだ。もちろん、ヨシにとっては恐ろしいことだと分かっているが、想像していた半分の大きさだったので、私は少しホッとした。
そしてもう1つ、安心したことがある。
私は、もしかするとヨシは、私と一緒にいることで、人ならざるものが視えるようになったのかも知れない、と心配していた。しかし廊下にある大きな観葉植物に、何かが取り憑いていることには気付いていないようだ。
おそらく、霊感が強くなったわけではなくて、夜中に来る大きな顔だけが視えているのだろう。
人によって怪異の視え方は違う、と聞いたことはあるけれど、たった1種類の妖怪だけが視えるなんて珍しいな、と思った。
詳しい話を聞くと大きな顔は、1週間ほど前から現れるようになったらしい。そして夜中の、同じくらいの時間になると来るようだ。
ヨシは、外が暗くなってくると不安そうな顔をしたが、私は少しワクワクしながら眠りについた。
深夜の3時頃。何かの音がうるさくて、目が覚めた。
——何の音だろう?
窓の方を見ると、なぜか、外が見えた。寝る時には、カーテンが閉まっていたはずだ。
そして外の音に耳を澄ませると、おじさんが「うーん」と唸うなっているように聞こえた。
——もしかしてこの音って、ヨシが「ゴロゴロ」と言っていた音なのかな? どう聞いても、おじさんが唸っているように聞こえるけど……。
霊感が有るか無いかで、聞こえ方が違うのだろうか。
すると、窓に大きな影が映った。
布団の中に隠れていた私が、少しだけ顔を出して窓を見ると、窓枠と同じくらいの大きさの、巨大な目が視えた。部屋の中を観察するように、ギョロギョロと動いている。
目の大きさからすると、やはりヨシが言っていた通り、顔だけしかないのだろう、と思った。窓に近付く影も、丸く視えていたからだ。
丸顔のおじさんで、目はとても大きく、まつ毛が長い。そして、執事しつじのような髭ひげが生えている。皮膚は、硬いゴムのような質感に視えた。色は少し緑がかっている気がするが、暗いのでよく分からない。
私は人ならざるものが視えても、顔のパーツが分からないので、もしかしたら視えないかも知れない、と思っていたが、とてもはっきりと視えている。ただ、視えたところでそれが霊なのか、妖怪なのかはよく分からなかった。
——でも、耳鳴りはしていないし、頭痛も吐き気もない。それに嫌な感じもしない。やっぱりこれは、妖怪なのかな?
私が色々と考えを巡らせていると、大きな顔はまた「うーん」と音を出しながら、隣の家の方へ移動して行った。
大きな顔がいなくなったので、布団から出てヨシを見ると、彼は頭から布団を被って震えていた。やはり普通の人は、ただ人ならざるものが視えただけでも怖いのだろうか。
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