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不思議体験

きのこさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

覗かれる部屋
長編 2024/12/24 09:33 545view

 普通に考えると、そんな姿では動くことはできないような気がする。ゴロゴロと音がするということは、人間が車に乗るように、何かに乗って来るのだろうか。

 どちらにしろ、ヨシは怖がっている。このまま放っておくのは可哀想だと思った。

「分かった。ヨシの家に泊まりに行くよ」

「ありがとう。でも、実際に見たら結構怖いと思うけど、大丈夫?」

「うん。部屋の中を覗いて帰って行くだけなら、大丈夫だよ」

 肩をポン、と叩くと、ヨシは安心したように目を細めて微笑んだ。 

 私は一度、自分の家へ帰ってから、ヨシの家へ行った。

 ヨシの家は、2階がリビングで、1階が寝室になっている。それが分かった私は、安堵あんどの吐息といきをついた。

 ——だから、顔が窓の所に来るって言ったのか。

 私は、2階にヨシの部屋があると思い込んでいたので、家と同じくらいの大きさの顔が来るのかと思っていたのだ。もちろん、ヨシにとっては恐ろしいことだと分かっているが、想像していた半分の大きさだったので、私は少しホッとした。

 そしてもう1つ、安心したことがある。

 私は、もしかするとヨシは、私と一緒にいることで、人ならざるものが視えるようになったのかも知れない、と心配していた。しかし廊下にある大きな観葉植物に、何かが取り憑いていることには気付いていないようだ。

 おそらく、霊感が強くなったわけではなくて、夜中に来る大きな顔だけが視えているのだろう。

 人によって怪異の視え方は違う、と聞いたことはあるけれど、たった1種類の妖怪だけが視えるなんて珍しいな、と思った。

 詳しい話を聞くと大きな顔は、1週間ほど前から現れるようになったらしい。そして夜中の、同じくらいの時間になると来るようだ。

 ヨシは、外が暗くなってくると不安そうな顔をしたが、私は少しワクワクしながら眠りについた。

 深夜の3時頃。何かの音がうるさくて、目が覚めた。

 ——何の音だろう?

 窓の方を見ると、なぜか、外が見えた。寝る時には、カーテンが閉まっていたはずだ。

 そして外の音に耳を澄ませると、おじさんが「うーん」と唸うなっているように聞こえた。

 ——もしかしてこの音って、ヨシが「ゴロゴロ」と言っていた音なのかな? どう聞いても、おじさんが唸っているように聞こえるけど……。

 霊感が有るか無いかで、聞こえ方が違うのだろうか。

 すると、窓に大きな影が映った。

 布団の中に隠れていた私が、少しだけ顔を出して窓を見ると、窓枠と同じくらいの大きさの、巨大な目が視えた。部屋の中を観察するように、ギョロギョロと動いている。

 目の大きさからすると、やはりヨシが言っていた通り、顔だけしかないのだろう、と思った。窓に近付く影も、丸く視えていたからだ。

 丸顔のおじさんで、目はとても大きく、まつ毛が長い。そして、執事しつじのような髭ひげが生えている。皮膚は、硬いゴムのような質感に視えた。色は少し緑がかっている気がするが、暗いのでよく分からない。

 私は人ならざるものが視えても、顔のパーツが分からないので、もしかしたら視えないかも知れない、と思っていたが、とてもはっきりと視えている。ただ、視えたところでそれが霊なのか、妖怪なのかはよく分からなかった。

 ——でも、耳鳴りはしていないし、頭痛も吐き気もない。それに嫌な感じもしない。やっぱりこれは、妖怪なのかな? 

 私が色々と考えを巡らせていると、大きな顔はまた「うーん」と音を出しながら、隣の家の方へ移動して行った。

 大きな顔がいなくなったので、布団から出てヨシを見ると、彼は頭から布団を被って震えていた。やはり普通の人は、ただ人ならざるものが視えただけでも怖いのだろうか。

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